<新風・’21センバツ上田西>支える人々/1 監督の兄・吉崎正嗣さん 「マサトレ」でより強く /長野
◇トップアスリート支えた経験生かし 初のセンバツに向けて上田西ナインがフィジカル強化のために取り入れているのが、吉崎琢朗監督(38)の兄でトレーナーの正嗣さん(40)が考案した「マサトレ」だ。正嗣さんはサッカー元日本代表の内田篤人さん(32)ら国内外のトップアスリートの活躍を支えた実績を持つ一流のトレーナー。強力な援軍を得て選手たちは日々の鍛錬に励んでいる。【皆川真仁】 正嗣さんは上田市立第三中、上田高でサッカーに打ち込み、体育の教員を目指して中京大体育学部に進学した。大学在学中に「スポーツを仕事にするなら超一流の選手と働きたい」と大志を抱き、卒業後トレーナーに必要な国家資格を取得。その後複数のJリーグクラブで経験を積み、自信を深めていった。 転機は2013年。当時勤めていた会社がドイツ1部シャルケで故障に悩まされていた内田さんのためにドイツ支社を開き、トレーナーを派遣することになった。これまでの経験から正嗣さんに白羽の矢が立つと、言語の問題はあったが「やりたいことを優先する」と臆することなく海を渡った。 渡独後、内田さんの信頼を得た正嗣さんの腕は広く知られ、大迫勇也(30)=ブレーメン=や川島永嗣(37)=ストラスブール=らの施術も担当。その評判は外国人選手にも広まった。18年のワールドカップ(W杯)ロシア大会後にドイツでの仕事に区切りをつけると、日本のマッサージ技術を世界に発信するため米国にも活動の場を広げた。 「プロのやっていることや考え方を伝えられるのが僕の強み。それを生徒に全部インプットさせることは僕にしかできない」と正嗣さんは話す。相手が高校生であっても、トップアスリートとアプローチは一切変えない。前チームで講演を行った際には当時1年生だった現2年生にも全員の前で一人一人に目標をアナウンスさせた。「目標を発信して共有するといろんな人に応援してもらえることを実感してほしかった」と意図を明かす。 練習に取り組む姿勢にも高校年代の枠を超えた水準を要求する。「『目指せ甲子園』と、内田や大迫のように高校時代からプロや海外を意識するのとでは個人の取り組み方が全く違う」とし、「甲子園常連校が相手でも『勝てない』という気持ちにはさせたくない。考え方へのアプローチはどんどんしてあげたい」と意気込む。 昨秋の公式戦後から同校が本格的に取り入れている「マサトレ」は、吉崎監督の要望に応じて正嗣さんがメニューを練り上げた。 俊敏性を高めるトレーニングやストレングス(体力強化)のトレーニングに加えて、鍵となるのが大リーグなどでも取り入れられている「PRI呼吸法」だ。深い腹式呼吸で横隔膜に刺激を与え、ストレングストレーニングと組み合わせると強度が格段に上がるという。副交感神経を優位にすることで緊張が和らぎ、緊迫した場面で体が硬くならないようにする効果もある。投手の榊原奨(2年)はマサトレの効果について「全身を使って動くので全身がきつくなる。体幹が強くなった」と手応えをつかむ。 現在は東京や埼玉で活動する正嗣さん。新型コロナウイルスの影響もあり同校を訪れることは難しいが、選手たちは正嗣さんがコロナ禍の中で作成した資料や動画に基づいてトレーニングに励む。 「自分が関わった生徒たちが夢をつかんだのが一番うれしい」と同校のセンバツ出場を喜ぶ正嗣さん。それでも、生徒たちにはあえて上の目標を示す。「県レベルで活躍するのではなく、甲子園常連校になってほしい。いい準備をして、もっと上の、見たことのない景色を見てきてほしい」とエールを送る。=つづく ◇ 初のセンバツ出場を決めた上田西。夢舞台に挑む野球部を支える人たちを紹介する。 ……………………………………………………………………………………………………… ◇監督と正反対 5人きょうだいのうち2人だけの男兄弟の正嗣さんと吉崎監督だが、性格は正反対だという。正嗣さんは「僕は感覚的な人間ですが、彼は理論、理屈で伝える(タイプ)」と吉崎監督を評し、「『熱血監督』という感じではなく、冷静に分析して細かく指導することができるんじゃないかなと思います」と手腕に太鼓判を押す。