『七帝柔道記Ⅱ』1文字ずつ刻み込むように書いている…伝説の青春小説 11年ぶりの続編に向かった原動力
増田俊也 Toshinari Masuda ---------- ますだ・としなり/'65年、愛知県生まれ。'06年『シャトゥーン ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。'12年、『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞 ---------- 【写真】閲覧注意…『進撃の巨人』の元ネタになったとも言われる衝撃事件
執筆の原動力とは?
―今作では北海道大学柔道部の増田青年が高学年になり、引退試合の七帝戦までの2年を描いています。 『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』などのノンフィクション作品や『北海タイムス物語』といった小説を含め、僕が書いているさまざまな作品は、手塚治虫先生の『火の鳥』のように実は大きな物語世界の一部を成しています。自伝的小説である『七帝柔道記』シリーズは、そのサーガの中で柱になる作品です。 今作の後、増田青年は大学を中退し、土木作業員を経て北海タイムスに入社して新聞記者に。後輩たちが七帝戦で優勝するまで、OBとして柔道部を見守りながら、物語は続いていきます。 ―執筆の原動力は何だったのでしょうか? 今作でも少し登場しますが、僕が4年目の時に入部してきた2人の1年目。後に主将を務める吉田寛裕君と、副主将の中井祐樹君です。そして2人のライバルだった九州大学柔道部主将の甲斐泰輔君。甲斐君は急性すい炎で22歳で亡くなり、吉田君は心を病み、24歳で夭折します。中井君は北大を中退して総合格闘家になり、'95年のバーリ・トゥード・ジャパンに出場し、右目を失明しながらヒクソンと戦い、格闘技界に大きなうねりを起こしました。彼らの輝きを読者に伝えたい。それが僕の役目です。 ―実在の人物が登場する、私小説のスタイルで書かれています。 吉田君、中井君、甲斐君の活躍はこの後、3、4で描かれることになると思いますが、彼らの名前を残すために私小説の形にするのが必然でした。
魂をそのまま書く
僕は技巧は使わず、誠心誠意、1文字ずつ刻み込むように書いています。感動させようなんて微塵も考えていない。ベテラン編集者や作家の先輩には「増田さんには小説や文章の勉強をしないでほしい。魂をそのまま書く作家でいてほしい」と言われています。 自分のまわりで起こったことを筆が進むまま書いているだけですが、ありそうでない作品だと思います。たとえば政治家や大企業の社長といった方が大学時代を描く私小説を書いても商業出版として成立させるのは難しいですよね。僕は恵まれていますね。 ―同期の竜澤さんや先輩の和泉さんなどユニークな登場人物ばかりです。青春時代の克明な描写に夢中になります。 登場人物がチャーミングだとしたら、モデルそのものが魅力的なんですよ。すべて記憶に残っていて、当時のメモも活用しながら執筆しています。 記憶力については驚かれることも多いですが、作家気質なのかもしれません。いつか北大柔道部のことを書こうと当時から考えていたんでしょう。 でも不思議なのが、ぎっしりと詰まっている忘れられない記憶のはずなのに、書いていくたびに、楽になって、忘れていく感覚がありました。 僕は先輩の斉藤テツさんに対して罪の意識とわだかまりをずっと感じていて、そのことを前作と今作でも書いているけれど、テツさん本人からすれば「そんなことを考えていたのか」と驚いたかもしれない。