アップルの生成AI、成否はiPhoneの業績次第
米アップルがAI(人工知能)分野の競争で足場を固めるためには、スマートフォン「iPhone」の販売が好調である必要があると、米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じている。アップルのビジネスモデルはハードウエアが中心だ。顧客に同社の生成AIサービスを提供する唯一の手段が同社製機器であり、その中で最も重要な位置を占めるのがiPhoneだからだ。 ■ 消費者にとってアップルAIは高コスト しかし、消費者がアップルの生成AIサービス「Apple Intelligence(アップルインテリジェンス)」を利用するためにはコストをかけなければならない。Apple IntelligenceをiPhoneで利用するには、iPhone 15の上位機種を既に持っているか、最新の「iPhone 16」シリーズを購入する必要がある。これらのモデルでは様々なメモリー容量を選べるが、その平均価格は1000米ドル(約15万3000円)超となる。 これに対し、米グーグルや米メタ、米マイクロソフト、米オープンAIといったアップルの競合企業は高額な追加料金なしで、様々なメーカーの端末から自社AIサービスを利用できるようにしている。 ハードウエア販売が事業の中心であるアップルが、AI分野でこれら競合サービスに対抗していくためには、自社の端末が売れ続ける必要がある。
■ 生成AI搭載スマホの出荷台数、28年に3倍超 香港の調査会社カウンターポイントリサーチによると、2024年における、生成AI搭載スマホの世界出荷台数は、全体の19%に達する見通しだ。この比率は28年に54%となり、台数は7億3000万台になると同社は予測している。これは24年の出荷台数見通しの3倍超という数値だ。生成AI搭載スマホの出荷台数は23~28年の期間、毎年平均74%の成長率で拡大するとしている。 カウンターポイントは、韓国サムスン電子とアップルの、生成AI搭載スマホ市場におけるシェアが、24年に合計で75%に達するとみている。両社とも先進国市場で強いプレゼンスがあり、高価格帯端末の市場を支配している。生成AIは、まず高価格帯スマホに搭載され、その後、中価格帯端末、低価格帯端末へと広がっていく。こうしたトレンドに基づき、当初はサムスン電子やアップルが有利になると予測している。 ■ スペック競争からパーソナル化競争に 生成AIの台頭により、メーカー間の競争における焦点に変化が生じてきた。従来のハードウエアスペック競争から、ユーザーエクスペリエンスに重点が置かれるようになった。つまり、これまでは、より大きなディスプレー、より速いプロセッサー、より多くのカメラといったハードウエアの進化が重視された。しかし、今や、いかに1人ひとりにパーソナル化された体験を提供できるかといったことが重要となり、高度なインテリジェンス機能が求められている。 現在、イノベーションは方向性を変えながら加速しているという。業界を挙げて、生成AIの力に頼った超パーソナル化の方向に向かっている。メーカーにとってAIをどう使いこなすかが、自社製品を差異化する上で重要になるとカウンターポイントは指摘する。 アップルはこれまで、使い勝手の良さを武器に自社端末の販売を拡大してきた。かつて、創業者のスティーブ・ジョブズ氏は、「アップル製品にはマニュアル(取扱説明書)は要らない。なぜなら、すべてが直感的(intuitive、インテュイティブ)だからだ」と強調していた。 同氏が死去してから13年が過ぎた今、ジョブズ氏時代を踏襲した究極の、AI活用「インテュイティブiPhone」が実現するのだろうか。アップルは今後1年に及ぶ数回のOS(オペレーティングシステム)アップデートを通じて世界中の最新iPhoneをAI化する計画だ。その成否は今後のiPhoneの販売実績にかかっている。
小久保 重信