「令和の米騒動」を深掘り「減反政策」による生産力低下に…猛暑・災害やインバウンド需要増が追い討ち
山陰中央テレビ
TSKと山陰中央新報社のコラボ企画「カケル×サンイン」。共通のテーマをテレビと新聞それぞれの視点で取材し、ニュースの核心に迫ります。今回取り上げるのは、この夏起きたコメ不足の問題です。 田中祐一朗記者: 今も主食として欠かせないコメ、いつでも手に入れられるものと思っていましたが、山陰でもこの夏、多くの店頭から姿を消す異常事態が起きました。今回は、この問題について2回シリーズで考えます。まずは店頭からなぜコメが消えたのか、その背景を探ります。 松江市郊外の水田では実りの秋を迎え、首を垂れる稲穂が一面を黄金色に染めていました。 「令和の米騒動」とも呼ばれた2024年夏の全国的なコメ不足。山陰でもスーパーなどの店頭からコメが姿を消し、買いたくても買えない状況に。松江市内のスーパーでも客からの問い合わせが連日寄せられたといいます。 消費者: (8月に)ちょうどたまたま運良くありましたので、2袋くらい買いました。 まるごう川津店・園山泰久副店長: 「お米が入ってますか」とか、「いつ入ってきますか」という問い合わせは、結構頻繁にお客様の方からいただいております。売り場に出したりすると、1時間から2時間でなくなってしまうという状況が続いておりました。 9月に入り、2024年に収穫された新米の入荷が始まると品切れは解消され、コメ不足は一息つきましたが、供給不足の状況は続き、店頭では高値のままです。 消費者: 高いと思いますけどね。でも全てが上がってるから、あんなもんじゃないでしょうかね。 まるごう川津店・園山泰久副店長: お米不足になってから若干ですが米の価格も約1.5倍くらい上がっております。 この店では、主に県内産のコメを扱っていますが、夏ごろから仕入れ値が上昇し、5キロ入りが1980円だった販売価格を2980円に値上げし、今も下がっていません。 この夏起きたコメ不足…そして価格の高騰。背景について、コメの生産から流通まで携わるJAの担当者は…。 JAしまね米穀課・澤津賀一課長: 作柄は2023年も平年並みでしたが、品質があまり良くなかったというところで、精米にしたときの歩留まりが少し悪かった。結局出回る白米で不足が生じました。 その年のコメの収穫量を示す「作況指数」は、2023年は島根で「101」とほぼ平年並でしたが、一部で高温などの影響で品質の悪いものがあったということです。 通常は、精米後にコメとして食べられるのは玄米の約90%とされますが、2023年に収獲されたコメは精米で取り除く部分が多く、80%ほどにまで落ち込んだ産地や品種があったということです。 作況指数は、精米前の玄米の重量をもとに算定されるため、2023年産のコメは例年に比べて流通量が減り、コメ不足の一因になったということです。加えて全国では、災害の影響やインバウンドの受け入れ再開による需要増もコメ不足に拍車をかけたと分析しています。 一方専門家は…。 東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘特任教授: 2023年の猛暑による米の供給量の減少と、インバウンド需要の増加ということが言われてますが、これはわずかな需給の変動であって、別に根本的な原因がある。それは政策の流れに問題があったということです。 こう説明するのは、農業経済が専門の東京大学大学院の鈴木宣弘特任教授です。収穫量の変動による影響はわずかで、国が進めてきた減反政策がコメ不足の根本にあると指摘します。 日本の食卓に欠かすことのできないコメ。しかし国は、戦後の食糧不足が解消し、国民の食生活の変化で1960年代半ばにコメが余り始めると、1970年代から過剰生産を抑え、コメの価格を維持するため生産量を調整する「減反政策」を取ってきました。 2018年にこの政策は廃止されましたが、コメの価格は安定したものの、生産量の減少は続き、鈴木特任教授は、これは一時的なものでなく、コメの生産力そのものが低落していて、別の要因が重なれば今回のようなコメ不足がいつ起きても不思議ではないと指摘します。 鈴木特任教授: 生産がどんどん減っていく流れを政策的に作ってしまっているということが、ちょっとしたきっかけでコメ不足に陥る根底にある。 9月に入り、新米の入荷が始まりました。 藤本米穀店・藤本真由社長: 宇山米と言って雲南市の吉田町の一番山奥の産地、宇山という地域があって、2024年も暑かったですけど、とても良いお米ができました。 8月に発表された島根県の作柄予測は平年並みですが、2024年も高温などの影響で、作柄は産地や品種によってまちまち。産地にこだわり、コメを仕入れている松江市内の米穀店。中山間地の産地ではまずまずの作柄となった一方で、銘柄米のコシヒカリでも産地によって出来にムラがあると感じています。 JAしまね米穀課・澤津賀一課長: 暑さはなかなか歯止めが利かないのかなと思っていて、そうするとコシヒカリの 作付については難しくなってくる。 田中祐一朗記者: 猛暑や災害による影響、インバウンドによる需要増など需給の変化、そして長年の「減反」による生産力の低下などが重なって起きた今回のコメ不足。 次回は生産や流通の現場での影響について探ります。また山陰中央新報の26日の朝刊でも新聞の視点でお伝えします。
山陰中央テレビ