なぜ「朝の駅」のトイレは混んでいるのか…「通勤途中」に決まって起こる「腹痛」の正体
「ストレスで胃が痛む」ときに起きていること
次に、大事なプレゼンテーションや試験の直前になると、胃に石が入っているかのように重く感じ、胃が痛む、といったケースを考えてみましょう。 体の中では何が起こっているかというと、ストレスによって分泌された副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが胃や十二指腸を支配している迷走神経の2型の受容体に結合して胃の運動を抑制してしまいます。そのため、消化不良が起こり、胃が痛むのです。 なお、人によって1型と2型の受容体の発現量やその機能に違いがあるため、胃が重く感じるだけの人もいれば、逆にお腹が緩くなるだけの人もいます。中には、胃も重たくなり、お腹も緩くなる人もいます。 視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌は、通常は私たちの睡眠・覚醒リズムと同じように、体内時計による約1日の分泌リズムがあります。 具体的には、体内の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌量は、朝に高く、夜になるにつれ低くなるという変動をしています。そこにストレスが加わると、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌量がさらに増加します。 つまり、もともと体内の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン濃度の高い朝に、ストレスによって副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンがさらに追加されると、体内の副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン濃度はさらに高くなります。 そのため、朝にストレスを感じると腹痛や下痢といった症状が起こりやすくなるのです。 さらに悪いことに、満員電車の中で突然腹痛が起き、途中で下車してトイレに駆け込んだ、というエピソードがトラウマになってしまうと、「今日も満員電車に乗ると、また突然腹痛が起きるのではないか」と不安を強く感じます。 すると、脳の中では副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌がこれまで以上に増加してしまい、さらに下痢がひどくなってしまうのです。 駅のトイレが朝に限っていつも混んでいるのは、このような理由が考えられます。 * * * さらに続きとなる記事<腸内に潜む「隠れた臓器」…「腸」と「脳」をつなぐマイクロバイオータが「体」と「心」に及ぼす驚きの影響>では、「脳腸相関」について詳しく解説しています。
坪井 貴司(東京大学大学院総合文化研究科教授)