YOASOBI「アイドル」はなぜアメリカでもヒットしたのか?成功を支えた「3つの民主化」とは
音楽配信プラットフォームの進化により、日本の音楽は言語の壁を越えて世界へと広がりつつある。その象徴的存在であるYOASOBI「アイドル」の大ヒットには、制作・流通・価値配分という3つの民主化が背景にあった。ニコニコ動画から発展したボーカロイド文化など、日本独自の音楽カルチャーが世界展開の土台を形成してきた過程を、音楽×テクノロジーの第一人者が解説する。(聞き手/ジャーナリスト・研究者 まつもとあつし) 【この記事の画像を見る】 ● 音楽を巡る 2つの常識が崩れた 音楽を巡る2つの「常識」が崩れた。1つは「言葉の壁もあり、日本の音楽は世界でヒットすることはない」という常識、もう1つは「いくら日本のアニメが人気があるとはいっても、世界で一般化することはなく、付随する音楽も大ヒットはあり得ない」というものだ。 しかしここ数年、最新曲のみならず80年代の名曲も世界でヒットする現象が続いている。特に2023年にYOASOBIの「アイドル」が米国ビルボード・グローバル・チャートで首位を獲得したことは世間を驚かせた。こうした動きの背景に何があるのか? ユニバーサルミュージック出身で、現在はJASRAC理事を務めながら、エンターテック(次世代エンターテインメント×テクノロジー)の最前線で活躍する鈴木貴歩氏に聞いた。鈴木氏は、先日発表されて注目を集めた音楽産業に関する経産省のレポート「音楽産業の新たな時代に即したビジネスモデルの在り方に関する報告書」を編集した研究会の構成員の一人でもある。
● YOASOBI「アイドル」は間口が広く、 ショート動画に切り出しやすい曲 ――世界でのJ-POP躍進の象徴的な存在が、テレビアニメ『推しの子』主題歌の「アイドル」です。23年のビルボード・グローバル・チャート年間ソングチャートで1位(米国を除くチャートだが、米国でも9位にランクインしている)を獲得し、日本音楽が世界でヒットできることを強く印象づけました。MVはすでに5億5000回近く再生されています。 鈴木:すでにいろいろ分析はされていますが、音楽を本職とする立場から言うと、まずテーマがパワフルであり、色々な人に「刺さる」楽曲として仕上がっていることの凄さは指摘しておきたいです。例えば、アニソン/J-POP的な4つ打ち(1小節に四分音符が4回続くバスドラム)と、日本語の歌詞パートがメインでありつつ、冒頭が(聖歌的な)合唱からはじまるゴージャスさ、ニコニコ動画的なPPPH(パン、パパン、ヒューの略。アイドルポップスでの定番のリズムで、オタ芸を伴いやすい)のパートがあったり、ラップのパートがあったりと、それぞれの音楽好きにとっての「入り口」が散りばめられていて楽しむ事ができる。 また、わたしもユニバーサルミュージック在籍中に研究していましたが、音楽配信ではイントロは短くしないとスキップされますし、ショート動画として切り抜かれることを前提にする必要があります。「アイドル」では、様々な音楽パートのそれぞれが切り抜かれやすくなっている。BPM(1分間の拍数=テンポ)が166の楽曲のなかで、16小節を切り出すと23、4秒くらいですし、8小節でも動画としての収まりも非常に良いのです。YouTubeやTikTokのようなユーザー投稿型のメディアとの相性は抜群で、拡散されやすい作りになっていると言えるでしょう。 ――たしかにSNSでのグローバルな拡散が注目されましたが、そもそも楽曲がそのように作られているわけですね。あとは、動画配信のおかげで、世界で人気の高まっているアニメとの相乗効果もありますね。