「子どもの居場所なくさないで」少年による西鉄高速バス乗っ取り事件、被害者の山口由美子さん 不登校の子 理解されることで生きやすく
24年前の西鉄高速バス乗っ取り事件の被害者、山口由美子さん(74)=佐賀市=は、事件をきっかけに不登校の子どもたち向けの居場所づくりに取り組んできた。当時17歳の少年が、なぜあんな事件を起こしたのか―。考えた末に行き着いたのが、子どもを取り巻く社会環境のあり方だった。周囲の大人たちに「あなたが子どもの居場所になって」と呼びかけている。
事件の翌年、佐賀市に不登校の親の会を発足。その後、子どもが集うフリースペースもつくった
週2日開くフリースペースでは、子どもたちと一緒にカードゲームをして遊んだり、散歩や料理をしたりして過ごしています。カウンセリングや治療の場ではないんです。それでも、しょぼんとしていた子が仲間を見つけ、生き生きと変わっていく。その様子がうれしくて、続けてきました。子どもたちから私自身が元気をもらっているんです。 親の会もそう。親も初めは、自分の子どもが不登校になったことを受け入れられない人がほとんどなんですよね。会では話をするだけ。不登校という問題が解決されるわけではないけれど、何となく元気になって帰っていく。 親が自分自身と向き合い、学校教育や子育てへの価値観を見直していくんです。子どもにとっては、理解してくれる人がいるだけでいい。その人が「居場所」になるんです。
居場所づくりの起点は、事件に遭ったことだった。少年は不登校を経験し、精神医療施設へ入所させた両親への憎しみも犯行の背景にあったとされる
一緒にバスに乗った塚本達子さん=当時(68)=が事件で亡くなったことを実感するにつれて、少年に対して「なぜそんなことをしたの」という思いが強くなりました。17歳の子が人を殺さずには収まらないほどになるのはなぜか。憎いというより、そこに至るまでに何とかできなかったのかという気持ちです。 長女も小中学校で不登校を経験していました。そして長女と少年の誕生日はたった1カ月違い。同じ佐賀で生まれ、紙一重で違う道を歩んだ。長女は「私はお母さんやいろんな人に話を聞いてもらったから良かった。『少年』には話を聞いてくれる人がいなかったんだろうね」と話していました。 事件後のカウンセリング中、精神科医が「あの少年にも居場所があったら、こんなことにはならなかったかも…」とポロリとこぼして。それがおなかにストンと落ちたんです。2人の違いは「居場所」があったかどうかだったと思ったんです。