ポイント付与"禁止"でどうなる?今後のふるさと納税
ふるさと納税の利用者に対するポイント還元が禁止されることになりました。ふるさと納税といえば、返礼品や寄付金の使途を指定でき、自らの意思で利用できる新しい納税制度として注目を集め、利用額が1兆円に届きそうな制度です。 多くの人はふるさと納税を利用する際、ポータルサイトを経由しているのではないかと思います。今回は、ポータルサイトなどでのポイント還元が禁止されることでどのような影響が出るか、考えてみます。 ■ポイント付与の何が問題なの? ふるさと納税でポイントが付与されると聞くと「お得」だと感じませんか。 ふるさと納税自体が、適切に利用すれば返礼品を実質無料で受け取ることができるため、お得な制度です。さらにポイントが付与されるとなれば、「お得×お得=とてもお得」な状態になります。 これに待ったをかけたのが、ふるさと納税を取り仕切っている総務省です。ふるさと納税が適正に運用されるよう、過度な特典や広告を禁止することを決めました。 具体的には ふるさと納税のポータルサイト等による、寄付に伴うポイント付与競争が過熱している。ふるさと納税のポータルサイトや返礼品を取り扱う事業者が返礼品を強調した広告宣伝を行っている。と指摘しました。 このため、ポータルサイト等を通じた寄付に対するポイント付与が禁止されることになりました。禁止は来年2025年10月からです。広告宣伝については、返礼品を強調したものは禁止事項であることを明確化しました。 ポータルサイトを通じてふるさと納税を利用した場合、自治体は寄付金額の10%程度の手数料を支払っているとされています。実際に、兵庫県宝塚市の資料ではふるさと納税の業務委託費を開示しており、返礼品の掲載、寄付受付から配送管理、収納事務等の一括代行業務を委託し、寄付額の13.2%(税込)を「さとふる」を運営する株式会社さとふるに支払うと書かれています。 ふるさと納税の利用は税金であるため、税金をポイント還元の原資にするのはいかがなものか、というのが今回の是正の趣旨だと考えられます。 ポイント付与を前提としてふるさと納税を宣伝する場合、自治体の当初予算よりも過大にふるさと納税経由での税額が増える可能性がある反面、支出も当初予算を大幅に超える懸念があります。 ポータルサイトの運営会社からすれば、売り上げが増えて万々歳なのかもしれませんが、利用額が増えるほど手数料額が増えるため、実質的な納税額が減少します。ただでさえ、返礼品競争が過熱しており、是正措置に取り組んだばかりなのに、いたちごっこの様相を呈しています。 ■広告宣伝の過熱で過剰な納税を行っている可能性も 筆者が気になっているのは、返礼品や広告宣伝の影響で、ふるさと納税の適正な上限額を超えたふるさと納税の利用があるのではないかという点です ふるさと納税は、所得税や住民税を原資に、地方に税金を再配分させる仕組みです。所得税も住民税も、所得に応じて納税額が変わります。 自分の納税額を覚えている人はほとんどいないと思うのですが、返礼品やポイント目当てに、自身の上限以上のふるさと納税を行ったとしても、本人は気が付きません。結果として、ふるさと納税の上限を超えた金額は単なる寄付となり、利用者が本来意図した利用になりません。 金融業界の表現では、顧客利益を損なうような利用になっているかもしれません。ここは、今後さらなる是正が必要な箇所ではないかと思います。 ■実施まで1年以上の猶予で何をすべきなのか 納税者側としては、ポイント付与が許されている間にふるさと納税を利用したいと考えるのが合理的です。 一方で、ふるさと納税の利用が減少する可能性があり、ふるさと納税の返礼品を主要事業としている事業者は、売り上げの見込みが大幅に狂う可能性があります。 金融機関から資金を借り入れて設備を導入しているような事業者にとっては、ポイント付与の禁止に伴う返礼品のニーズが減少することは死活問題になりかねません。 とはいえ、返礼品のみを主事業とすることも健全な事業経営とは言いがたいですから、ふるさと納税に頼らない事業展開を1年かけて再構築する必要がありそうです。 ふるさと納税の返礼品やポイント付与により過熱する競争は、利用する側もいびつな感覚を抱いていた人もいたことでしょう。今回の改正により、自治体の手取りが少しでも増えることになれば、制度が適正化することになっていると言えるでしょう。 あなたは、ポイント付与前にふるさと納税を利用しますか?禁止になってから利用しますか?利用者の倫理感覚も問われる事態になりそうです。 高橋 成壽(たかはし・なるひさ)/1978年神奈川県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、2001年にFP資格を取得。投資や保険などのキャリアを経て、2007年にFPとして独立。自身の投資経験と世界の金融ネットワークを活用し、シングルマザーから上場企業の経営者まで、1人ひとりに合わせたお金のアドバイスを提供している。有料のFP相談「 寿FPコンサルティング 」、無料のマネー相談専門家マッチング「 ライフデザインセンター 」を運営。2020年より東海大学非常勤講師として学生向け金銭教育に従事。著書に『ダンナの遺産を子どもに相続させないで』(廣済堂出版)がある。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
高橋 成壽