<憲法70年>個別的自衛権で自衛隊はどんな行動が取れるのか?
日本国憲法は1947(昭和22)年に施行され、5月3日で70年を迎えました。国民主権、基本的人権とともに憲法の三大原理をなす平和主義を掲げ、戦後の日本は「平和国家」として歩んできました。いまにわかに北朝鮮をめぐる情勢が緊迫しています。2015年の安保関連法制の際には「集団的自衛権」をめぐる議論が活発になされましたが、今回は「個別的自衛権」をテーマに考えてみたいと思います。安全保障問題に詳しい元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【インフォグラフ】数字で見る日本国憲法 3大原理は何?
当初は「反撃できない」解釈が有力
純粋に仮定の話ですが、北朝鮮から日本が攻撃された場合、日本は自衛のためにどのような行動を取れるか。まず、憲法の規定を確認しておきましょう。
1946(昭和21)年に公布された新憲法は第9条で、日本国は国際平和を誠実に希求すること、そのため戦争を永久に放棄すること、武力行使も原則しないことなどを定めました。当初はこの規定により、外国から日本が攻撃された場合でも武力で反撃できないという解釈が有力でした。 しかし、1950~53年のいわゆる朝鮮戦争を経て54年、日本国政府は「憲法は戦争を放棄したが、自衛のために他国からの武力攻撃を阻止することは憲法に違反しない」との解釈を打ち出し、自衛隊は憲法に違反しないと判断しました。今日、この解釈は大多数の日本国民によって受け入れられているといえるでしょう。 なお、ここで言う「自衛」とはわが国を防衛することであり、「他国の防衛」である「集団的自衛権の行使」と区別して「個別的自衛権の行使」と呼ばれています。 ※「公布」=国民への周知。「施行」=効力が生じる
「攻撃の着手時」を武力攻撃事態法で整理
実際には、「武力攻撃」と言ってもさまざまな形態があり、核兵器を搭載したミサイルによって極めて短い時間で圧倒的な破壊力のある攻撃が行われることも考えられます。ピョンヤンと東京の直線距離は約1200キロであり、発射から数分で東京を全滅させる攻撃もあり得るのです。 したがって、自衛行動は迅速にしなければならないのですが、早すぎると相手国から武力攻撃が行われるより先にこちらが攻撃を仕掛けること、つまり、憲法上認められない「先制攻撃」になってしまいます。これは非常に微妙で、悩ましい問題ですが、日本政府は従来、「武力攻撃の着手時をもって、武力攻撃の発生があった」と解し、「着手の有無は、諸般の事情を勘案し個別具体的に判断する」との基準を示していました。これでもまだ抽象的ですが、国内政局や安全保障上の考慮から、一定程度あいまいにせざるを得ませんでした。 この難問についての判断基準を明確化したのは、2003年に成立した「武力攻撃事態法」であり、これは2015年に行われた一連の安保関連法制の改正で「存立危機事態」が追加されました。 改正されたこの法律では、武力攻撃が発生する前の段階を「武力攻撃予測事態」とし、発生した後の事態をさらに「武力攻撃が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態(武力攻撃事態)」と「武力攻撃」に分けました。分かりやすくするため、その違いをあえて単純化して言えば、「武力攻撃事態」は、たとえば砲弾が日本に向かって飛んでくる状況のことであり、「武力攻撃」は砲弾が実際に日本に到達してからのことです。 以前の解釈では「武力攻撃の着手」とされていた事態を「武力攻撃事態」とし、その中に「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」を含めたのです。