特集:経済学の現在地 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる=安藤大介
「人間の心の作用の本性は他者に対する共感にある」 歴史をひもとくと、「経済学の父」とも呼ばれる経済学者アダム・スミスは、1759年に出版した『道徳感情論』で他者への共感の重要性を説いた。スミスを研究する坂本達哉・慶応義塾大学名誉教授は、スミスが説く「共感(シンパシー)」について「他人の喜びと悲しみの双方に適用される概念」と解説する。社会の分断が進む中、「共感」を説いた同書に時代を越えて光が当たっている。 ところが同書は、その後、脇に置かれたような存在になってしまった。「見えざる手」で知られ、個人の利益追求が社会の利益を増すことなどを記した『国富論』が大ヒットしたためだ。 さらに、道徳をも含めた著書だった国富論は、現代の主流派経済学へ続く過程で姿を変えた。主流派経済学は人間を、利己心の下、完全に合理的に行動する存在(ホモエコノミクス)と位置づけている。この前提は、現実の人間行動を十分に反映していないとの批判へとつながっている。 経済学もまた、失われた人間らしさや他者との関係を取り戻すよう、求められている。 (安藤大介・編集部)