習近平・中国国家主席の欧州歴訪:米中対立の長期化見据え、「仲間探し」が狙いか
EU加盟国の国境検問所建設を支援
そして、最後の訪問地となったハンガリーでは18項目の成果リストを発表した。地元では空港から都心への鉄道敷設や原発にかかわる協力など「利権」が動く事業が注目を集めたが、見過ごすべきではないポイントがある。中国国営通信新華社、中国共産党機関紙人民日報、中国電影(映画)局など5つのメディアが参画する文化協力である。中国にとって有利な言説を公式に拡散する手立てとなりうるからだ。さらに、事前に合意していたハンガリーと中国の警察による両国での共同パトロールや中国製監視カメラの導入と合わせて、隣国セルビアとの国境検問所の建設でも協力することが確認された。 中国政府は新興・途上国と類似の協力を進めつつあるが、EUとNATOの一員であるハンガリーは特別の意味を持つ。言論や監視システムなどでの協力強化は価値観の切り崩しにつながりかねない。習氏のブダペスト滞在時にも、3万人ともいわれる在住中国人の一部の同郷会(同じ故郷を持つ人で作る会)を通じて歓迎隊が組織され、赤いそろい帽子を被って市内に現れ、話題になった。ブダ城付近の習氏の宿泊先周辺に中国国旗を掲げて集結しただけではない。チベット問題で中国に抗議するハンガリー市民が掲げたチベットの旗をひきずりおろし、中国国旗で覆おうとしてもめ事になり、警察が仲裁に入る場面もあった。
EV関連などハンガリーに投資を集中
今回、数百人にのぼる訪欧団の多くは企業関係者だった。とりわけハンガリーには世界最大の車載バッテリーメーカー寧徳時代新能源科技(CATL)や米テスラと世界一を競うEVメーカーとなったBYDなど、EV関連の中国企業が続々と投資を決めている。EUは中国製EVの輸出攻勢に警戒を強め、中国政府による自国メーカーへの巨額の補助金が不公平な競争条件になっているとして関税の引き上げを決めた。中国メーカーはハンガリーで生産することでEU製として域内への輸出を目指す。 ドイツの中国専門のシンクタンク、メルカトル中国研究所(MERICS)によると、中国の対欧直接投資(2023年)の44%をハンガリーが占める。人口は約900万人で、経済規模もドイツの20分の1以下であることを考えれば、その集中ぶりがうかがえる。ただ、中国の対欧投資(23年)は68億ユーロと、10年以来の低水準だ。つまり、中国経済の減速に加えて主要国で中国マネーによる投資や買収に警戒感が増し、中国による対欧投資がしぼむ一方、ハンガリーが突出した受け入れ先になっているのだ。現地の野党やメディアは、中国政府・企業はオルバン政権に近い財閥や企業と取引し、彼らにもうけさせることで投資に有利な条件を引き出していると批判している。