上田誠仁コラム雲外蒼天/第39回「『駅伝とは……』を真剣に考えてみた」
関東学連の上田誠仁駅伝対策委員長(山梨学大顧問)による特別連載コラム。これまでの経験や感じたこと、想いなど、心のままに綴っていただきます! ********************** 残暑の厳しさを嘆き、給水の手段を検討していたかと思えば、三段跳の“ホップ・ステップ・ジャンプ”のごとく“残暑→紅葉→落ち葉”と一気に冬を迎え入れた感がする。 第100回(2024年)箱根駅伝 出場チーム選手名鑑をチェック! 四季折々の味覚や風情は季節の移ろいとともに楽しみたいものだが、なんだか今年は気忙しい。 気忙しいからとて、カレンダーのスケジュールは待ったなしに迫ってくる。先月号のコラムを書き上げ、一息ついたと思っているともう月末である。 10月から11月にかけては、出雲駅伝、箱根駅伝予選会、全日本大学女子駅伝、全日本大学駅伝と立て続けに大学関連の駅伝が息つく暇もなく開催され、早送りボタンを押された画像の様に日々が過ぎてゆく。 その間隙となる11月3日、第64回東日本実業団対抗駅伝が彩の国埼玉県庁から熊谷スポーツ公園陸上競技場までの7区間76.9kmで開催された。この大会は翌年の1月1日に開催される全日本実業団対抗駅伝、通称「ニューイヤー駅伝」の予選会でもある。 ※マラソン選手育成の配慮として、10月に行われたMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の参加選手が所属するチームは、選手の負担軽減のためニューイヤー駅伝出場の権利が与えられるルールが新たに導入されている。 今大会では山梨県初の実業団チームである「富士山の銘水」長距離陸上部が初出場。2022年4月に選手3人で発足したばかりだったが、創部2年目で見事11位となり、ニューイヤー駅伝の出場権を獲得した。創部当初は2025年を目途にニューイヤー駅伝の出場権の獲得を目指していただけに、「望みなしと思われることも、あえて行えば成ることしばし有り」とシェイクスピアが語っているが如く成しえたといえる。 私が山梨学院大学の監督として、箱根駅伝に初出場を決めたのが創部2年目の11月3日であったことを思えば、感慨もひとしおである。 チームを率いる高嶋哲監督は、山梨学院大学時代に駅伝主務を務め、卒業後は「もっと陸上競技やコーチングを学びたい」とのことで私の研究室の研修生として1年間在籍した経緯がある。その後、千葉県内の私立高校教員を経て、順天堂大学大学院でスポーツ科学を学び、山形県の南陽市役所で公務員チームとしてニューイヤー駅伝に初出場。同じく山形県のNDソフトでもニューイヤー駅伝に出場した経歴を持つ。今回の初出場も、過去の経験値とスポーツ科学の知見を生かしたコーチングおよびチームマネジメントの成果であったのではないかと感じた。 山梨県の人口は約80万人。関東の各県と比べれば格段に少ない人口ではあるが、サッカーJリーグのヴァンフォーレ甲府が昨年の天皇杯で優勝、女子バレーボールの山梨中央銀行が全日本6人制クラブカップ選手権優勝、女子バスケットボールの山梨クィーンビーズなど県民の声援を背に頑張っている企業チームやクラブチームがある。 地元の声援を受けながらとはいえ、勝負の対象は常に全国レベルであり、個人としてもさらに高みを目指す期待も込められるのが企業スポーツの宿命でもある。 今後はニューイヤー駅伝の常連チームとなり、順位を少しずつでも上げて行くには当然険しい道のりを歩むこととなる。そのことは十分承知の上ではあろうと思うが、今後の活躍がますます楽しみでもある。 晴れがましい初出場を決めた直後の高嶋監督は「山梨県内を拠点に活動する企業チームの存在意義は、地域のみなさんにどれだけ貢献できるかというところにある。今回の結果を受けて、山梨の誇れるものの一つになるためのスタートを切れたのではないかと思う」と語っている。 今年の富士山の銘水チーム構成は、14人中箱根駅伝経験者はわずか4名、平均年齢は24歳以下と若いチームである。 特筆すべきは、チーム最年長28歳の才記壮人選手(筑波大卒)。彼は今季1500mを中心にスピードに磨きをかけ、日本選手権の決勝では3分39秒58の好記録で4位入賞を果たしている。東日本実業団駅伝の1区では先頭から10秒以内で襷をつなぎ(区間7位)、持ち味のスピードを駅伝に生かす走りであった。 このコラムを書きつつ、11月25日に行われた八王子ロングディスタンスのリザルト表示に才記選手が29分13秒68の自己記録を大幅に更新し、28分23秒83をマークしたとの速報が飛び込んできた。今後は1500mを3分35秒前後で走破できる選手が5000m・10000mで高速レースを組み立てて勝負を決する時代となるのではないかと想像を膨らませた。これはあながち妄想ではないかもしれない。