高まるマスク氏のトランプ次期政権での影響力と難航する財務長官人事
難航する財務長官人事
そうした懸念をさらに高めることになったのは、次期トランプ政権での財務長官の人事だ。財務長官候補は、トランプ氏陣営で経済政策のアドバイザーを務めた米投資会社トップのスコット・ベッセント氏か、トランプ氏の政権移行チームを主導する米金融会社トップのハワード・ラトニック氏の2氏が有力とされていた。 マスク氏は16日のXへの投稿で、「ベッセント氏は平時での選択だが、ラトニック氏は実際に変革を実現するだろう」と主張し、ラトニック氏が適任との見方を公言したのである。これについては、トランプ氏陣営から不満の声が強まっている。マスク氏の存在は、トランプ政権の内部対立の火種となりえるだろう。ラトニック氏はその後、商務長官に正式に指名された。 こうした混乱も影響した可能性があるが、財務長官候補については、両氏以外に新たにケビン・ウォーシュ氏が候補として急浮上している。トランプ氏は一両日中にウォーシュ氏に面接する予定とされる。 ウォーシュ氏はブッシュ政権で経済顧問を務め、モルガン・スタンレーで投資銀行家として働いた後、米連邦準備制度理事会(FRB)理事を約5年間務めた。世界金融危機の際には、当時のバーナンキFRB議長の補佐役となり、投資銀行での経験を生かして証券会社とのパイプ役を務めたとされる。その後は経済や市場について幅広く発言しており、インフレタカ派として評価がある。 トランプ氏は、政権1期目に当時のイエレンFRB議長の後任にウォーシュ氏の起用を一度考えたが、最終的にはパウエル氏を選んだ。ウォーシュ氏は理事当時にニューヨーク連銀総裁候補に挙がっていたこともある。金融市場や金融機関にも精通している同氏が財務長官となれば、金融市場はそれを好感するだろう。 安全保障、外交に関連する主要閣僚人事に比べて、経済関連の閣僚人事、その中でも最も重量級の財務長官の人事が遅れていることには、マスク氏の影響力も含め、次期トランプ政権の不安定性を予見させる面もあるように思われる。 (参考資料) 「トランプ氏の「相棒」マスク氏、外交・人事で存在感」、2024年11月19日、日本経済新聞電子版 「市場が一目置くウォーシュ氏、米財務長官候補の1人に-豊富な経歴」、2024年11月19日、ブルームバーグ 「米国 蜜月マスク氏、人事に「口出し」 財務長官人選、SNS投稿」、2024年11月19日、毎日新聞 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英