山の斜面が丸刈りに「迷惑施設化」する再エネ施設 脱炭素で原発回帰にかじ、福島から懸念の声
「1・5度」実現にはこの10年が重要
22年度の国内の温室効果ガス排出量は、CO2換算で11億3500万トンと1990年度以降で最少となった。ただし、13年度比では19・3%減にとどまる。30年度目標の達成も非常に厳しいのに、その後わずか5年で大幅削減が求められることになり、そのための具体策のとりまとめも急務だ。 世界のCO2排出量の3割以上は中国からの排出が占めるとはいえ、日本は今でも世界5位の排出大国だ。 国立環境研究所の増井利彦・社会システム領域長は「日本政府は、これまでの排出削減が順調なことから脱炭素が実現できるとしているが、今の取り組みの延長で本当に実現できるのか」と疑問視する。さらに「IPCCは1・5度目標実現には、この10年の対策が重要だというメッセージを発している。今後5年、そして中長期的にどう脱炭素化を進めていくのか、政治が明確なビジョンを示す必要がある」と話す。【山口智】
温暖化対策議論、今こそ正面から議論を
かつて国内では「これ以上の温室効果ガス排出削減は、乾いた雑巾を絞るようなもの」といった声さえあった。政府のエネルギー関 係の検討会委員を務めるある研究者は「今では産業界も脱炭素を是としており、隔世の感がある」と話す。 東京電力福島第1原発事故後、石炭火力発電への依存度が高まった2013年度をピークに排出量は減少が続いている。それでも「地球温暖化対策は経済の足を引っ張る」という考えは根強い。脱炭素に逆行する石炭火力発電に依存しながら、今の産業構造をできる限り維持しようという保守的な意識も透けて見えるという。 とはいえ、脱炭素は喫緊の課題だ。気候変動の影響が私たちの日常生活に着実に影響を及ぼしているからだ。9月末に石川県・能登半島を襲った豪雨も、地球温暖化の影響で海面水温が高い状態が続いたことが影響して、極端な雨量をもたらしたと指摘されている。 能登に限らず、近年の豪雨、猛暑の一因は人為的な気候変動だ。だが、もともと日本は台風や地震など自然災害が多いこともあって「災害は仕方がないもの」と受け止め、気候変動対策をどう加速させるかという議論になかなかつながっていないのが現状ではないか。 さらに気になるのは政治の側からのメッセージがあまり聞こえてこないことだ。2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロという目標を掲げたものの、どのような道筋で達成するのか、現実的な手段は示せていない。 今回の衆院選でも、気候変動やエネルギー政策の議論は低調だ。東日本大震災直後の夏、多くの人がその日その日電気をどう使うか、今後どんな電源構成が必要か、真剣に考えたはずではなかったか。温暖化の被害に直面している今こそ、真正面から議論することが必要だと思う。
※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。