安保法成立で自衛隊は強化される? 法律と政府答弁との乖離
集団的自衛権の行使を可能にすることなどを柱とする安全保障関連法が成立しました。採決をめぐって与野党が未明まで攻防を繰り広げたこの法制は、戦後70年の日本の安全保障政策の大転換だと評されます。法案審議では、憲法学者による「違憲」との指摘が注目されたほか、法律の条文と国会での政府の答弁との「乖離」も目立ちました。今回の法整備で、日本はどのように変わるのか、あるいは変わらないのか、安全保障問題に詳しい元外交官の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【図表】そもそも「安保関連法案」とは? 集団的自衛権をどう規定
予算と人員は増やせるのか?
安保関連法の改正案は9月19日未明、参議院で可決され、成立しました。これによってどのような変化が生じてくるのか。改正直後で今後のことを占うには材料が不足していますが、これまでに明らかになっていることから言えることを整理してみました。 大きく言って、自衛隊など日本の防衛体制がどうなるかということと、憲法違反問題はどうなるかという2つの視点があります。 まず、自衛隊の任務は大幅に拡大することになりますが、自衛隊自体はそれに応じて強化されるでしょうか。 一般に、新しい法律が成立すると、履行するのに必要な予算措置が講じられます。資金の手当てがなければ何もできないからです。今回の改正についても、防衛省としては、当然、自衛隊の任務が拡大するのに応じて予算の増額を要求するでしょうが、それを実現することは簡単ではありません。 最大の問題は、改正法案の審議過程でしばしば現れた、法律の内容と政府側の答弁の食い違いです。具体的には、改正法では、自衛隊の活動範囲は日本の領域と「周辺地域」に限られず、世界に広がりました。それに応じて措置を講じると巨額の予算増と大幅な人員増が必要になります。 一方、政府は、自衛隊が海外へ派遣されるのは極めて限定されたケースだ、他国の領域に派遣されることは絶対ないなどと答弁しており、その方針によれば予算と人員の大幅な増加は必要でないということになるでしょう。今後、予算と人員の決定はどちらを基準に行なわれるのでしょうか。 また、予算に内在する複雑な事情も考慮する必要があります。新しい法律が成立したと言っても、その費用はできるだけ既存の予算の中でやりくりして手当てするのが常識です。自衛隊の場合も他の経費を節約することが求められるでしょう。 一方、自衛隊の任務が重くなるに伴い入隊する人が少なくなるような事態になれば、待遇面の改善が必要となり、機能を維持するだけで経費が多くなるという問題もあります。 さらに、防衛予算については、5年間の総額について一定限度の枠が設定されています。具体的には、中期防衛力整備計画(2014年度~18年度)で防衛費の総額をおおむね23兆9700億円の枠内に抑えることになっています。 改正された法律にしたがって任務を遂行できるよう自衛隊を強化するには、以上のようにあまりにも不安定要因が多いので、具体的な結論を出すのに新たな論争が生じる可能性があります。仮定の話ですが、改正法にしたがって自衛隊を強化できなければ法律は絵に描いた餅になりかねません。