安保法成立で自衛隊は強化される? 法律と政府答弁との乖離
「憲法違反の疑い」どう受け止める?
もう一つの視点が、憲法違反の疑いの濃い法律に対して国民がどう向き合うかです。政府・与党の立場ではこのような問題は存在しないでしょうが、あらためて説明するまでもなく、国会審議の過程で、安保関連法案について憲法学者や内閣法制局のOBを含め大多数の専門家が憲法違反であるとの判断を示しました。改正法案を支持したのは防衛体制を強化すべきだという観点からであり、正面から憲法違反でないと論じたのではなかったと思います。 また、国民の過半数が改正法案に反対していたのは憲法違反を危惧していたからでしょう。関連法の改正は成立しましたが、国民と専門家による反対、疑問は今後日本の政治において大きな問題であり続けるのではないでしょうか。 法律が憲法に違反しているか否かを審査・決定するのは最高裁判所ですので、その判断を求めることも考えられます。しかし、それですべてではありません。法律の合憲性について国民が意見を表明するのは当然です。 「国民の意見」はどのように表明されるか簡単ではない のは事実ですが、国会で議決したことだけが国民の意思だというわけにはいきません。形式的に民主主義のルールに従っているから問題ないとみなすのが危険なことは、かつてナチスの例で世界が経験したことです。世論調査も、また人々がさまざまな形で表明する意見も尊重されるべきです。国会前のデモでは非常に多くの人が、自発的に法案に反対する声を挙げました。
「海外での武力行使」と「後方支援」
改正法のどこに憲法違反の疑いがあるか、主な点を示しておきます。 その一つは武力攻撃事態法(武力攻撃・存立危機事態法)第3条4項の「存立危機事態においては、存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない。ただし、存立危機武力攻撃を排除するに当たっては、武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と、もう一つは第4条1項の「国は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つため、武力攻撃事態等及び存立危機事態において、我が国を防衛し、国土並びに国民の生命、身体及び財産を保護する固有の使命を有することから、前条の基本理念にのっとり、組織及び機能の全てを挙げて、武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する」という規定です。 「存立危機武力攻撃」とは、集団的自衛権の行使の対象となる攻撃で、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃であって、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるもの」です。 今回多くの法改正が行われましたが、ほとんどすべては自衛隊の任務を拡大するものであり、「○○できる」という形で記載されています。しかしこの2つの規定は、存立危機事態が認定されれば、国家は「存立危機武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図る」ことを義務づけ、しかも「組織及び機能の全てを挙げて、武力攻撃事態等及び存立危機事態に対処するとともに、国全体として万全の措置が講じられるようにする責務を有する」ときわめて重い義務を課しているのです。自衛隊は、存立危機攻撃を受けた外国へ行かなければこの義務は果たせないでしょう。