山間の町を包む陰謀に中村倫也が挑む!秘めたものを感じる川口春奈の演技にも注目の「ハヤブサ消防団」
銀行や中小企業を舞台にした痛快な作品を生み続ける作家・池井戸潤。池井戸作品の中にあって"新機軸ミステリー"と評された小説をドラマ化したのが、2023年に放送された「ハヤブサ消防団」だ。 【写真を見る】ミステリー作家の主人公を演じた中村倫也 山間にある八百万町・ハヤブサ地区で暮らし始めたミステリー作家・三馬太郎が事件や陰謀に巻き込まれてゆく物語で、主演は"カメレオン俳優"として知られる中村倫也が務めた。また、ヒロインとなる映像ディレクター・立木彩を川口春奈が演じている。ここでは中村と川口の演技について見ていきたい。 ■親しみやすい主人公を中村倫也が好演! 著名な新人賞を受賞したもののヒット作を生み出せず、鬱屈とした日々を送っていた作家・三馬太郎は、ふとしたことがきっかけで、かつて何度か訪れたことのある父の実家に足を運ぶ。中村が演じる太郎は、物語の当初から純で人の良さそうな雰囲気がある。編集者との電話では少し幼さが残っているような口調で話し、ハヤブサ地区で出会った人にも、遠慮がちながら丁寧に接する。また、空き家となっていた実家にいた虫に怯えるなど、少々情けない部分も見せたりする。 ミステリーの主人公としては頼りなく思えるが、むしろクセがなく、親しみやすいキャラクターとなっている。それだけに、危険な目に遭ったり、次々に起こる事件に太郎がどう対応するのか、つい見たくなってしまう妙な魅力があるのだ。 ■中村の演技力が、強い意志も併せ持つ主人公を創り上げた その一方で、太郎はミステリー作家としての観察力と推理、またハヤブサ地区を守るための強い意志も見せる。最近、同地区では放火が疑われる火事が連続で発生していて、当地で暮らし始めた太郎も地元の"ハヤブサ消防団"に入団する。小さな消防団だが、賑やかで結束の強い団員たちと共に、太郎は放火犯を捜し始める。 そこから物語が動き出す。放火犯と思われていた人物が川で遺体で発見され、さらには消防団員の家まで狙われる。そして物語が進み、太郎が怪しいと踏んだ人物とやり取りするシーンでは、落ち着いた声音で話し、揺るぎない強い眼差しで相手を見据えるのだ。 人が良かったり、強い意志を見せたり、さまざまな面を見せる太郎。それらが違和感なく同居しているがゆえに、"三馬太郎"は魅力ある人物となっているし、それを成し得たのも中村の演技力があってこそだろう。同時に、太郎の大人しめな雰囲気が、消防団の面々の存在をより強く感じさせる。魅力的、かつバランスの取れた主人公を演じ上げた中村の力量は、さすがというほかない。 ■大きな瞳の奥に何かを隠した立木彩を川口春奈が秀逸な演技で表現 川口が演じる立木彩は、第2話から本格的に登場する。ハヤブサ地区を舞台にしたドラマのシナリオを太郎に頼みたいということで、2人は会うことになる。第1話で、1人丘の上に立っていた時の彩は異様な雰囲気を醸していて、太郎も思わず足を止めたほどだが、役場での詳しい打ち合わせの時にも妙な様子を見せる。 初めは彩はテキパキと打ち合わせを進めるが、太郎がこの村に来た理由を聞いたり、村の慣習について触れたりすると、なぜか落ち着かない様子になる。特に、田舎での近すぎる人間関係を太郎が苦手だと言った時には、はっきりとそれを否定する。「ハヤブサ全体が家族で、自分もその一員」と言い切った彩の言葉には、信念のようなものさえ感じられる。 いったい彩の心の底に何があるのか。大きな瞳の奥に何かを隠しているであろうそんな彩と、太郎は関係を持つように。消防団の大会で、操作を誤ったハヤブサ消防団の放水を浴びてびしょ濡れになったり、夜道でホタルを見つけて2人で幸せそうに微笑んだり。愛らしく、しかし何か謎を秘めている"立木彩"という人物を、川口もまた、魅力的に演じ上げている。 物語は、ハヤブサ地区に目をつけたソーラーパネル業者や、かつて大きな事件を起こしたカルト教団など、多くの要素が複雑に絡み合い進んでいく。太郎と消防団はハヤブサ地区を守れるのか?ヒットメーカー・池井戸潤が紡ぎ上げたストーリーと、中村や川口ら豪華俳優陣の演技に惹き込まれながら、ぜひ本作を最後まで楽しんでほしい。 文=堀慎二郎
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