“悪魔の子”ダミアン降臨から半世紀…誕生秘話を描く『オーメン:ザ・ファースト』に詰まった第1作とのリンク
オカルト映画の金字塔『オーメン』(76)の“始まりの物語”を描く『オーメン:ザ・ファースト』(24)のブルーレイ+DVD セットが、10月30日に発売となった。本作は“悪魔の子”ダミアン誕生に隠された闇を描く前日譚で、第1作へとつながる要素が細かく織り込まれている。そこでここでは、『オーメン』の魅力を再確認しながら、『オーメン:ザ・ファースト』の必見ポイントを紹介したい。 【写真を見る】“悪魔の子”ダミアンによる、ショッキングな死に様が話題を呼んだ『オーメン』 ■アカデミー賞も受賞…歴史に名を刻んだ名作『オーメン』 第1作が公開されたのは1976年のこと。悪魔崇拝を描いた『ローズマリーの赤ちゃん』(68)、少女に悪魔が憑く『エクソシスト』(73)で火が付いたオカルトブームを背景に世界的な大ヒットとなった。その後シリーズ化、リメイクやテレビシリーズ版も制作され、オカルト映画を代表する名作として多くのファンに支持されている。なお、“オーメン”とは予兆や兆しといった意味を持つ。 『オーメン』の物語は1971年6月6日午前6時、ローマ駐在のアメリカ人外交官ソーン(グレゴリー・ペック)が妻キャサリン(リー・レミック)の出産が死産に終わったと知らされることから始まる。悲しみに暮れる彼は病院のスピレット神父(マーティン・ベンソン)の勧めで、同じ時刻に生まれた孤児を妻にわが子と偽り連れ帰った。ダミアンと名付けたその子が5歳になると、一家の周囲で奇妙な死亡事件が多発。困惑するソーンの前に現れたブレナン神父(パトリック・トラフトン)は、ダミアンは邪悪な存在だと警告する。 本作のキモはなんといっても“悪魔の子”ダミアンである。天使のような少年が、人類を破滅に導く種子という設定はインパクト抜群。そのギャップも手伝い、ダミアンの名は666の数字と共に邪悪を体現するものとして人々の脳裏に刷り込まれた。それまで映画に登場する悪魔は人々を襲い、惑わす凶悪な存在として描かれてきたが、将来の大統領候補のもとに、“悪魔の子”を養子として送り込むという現実的な展開も本作ならではだ。 悪魔などの異形が明確には登場しない本作は、「ダミアンは本当に“悪魔の子”なのか?」というミステリーを主軸にした構成になっているのが特徴だ。息子に不信感を抱いたソーンは、カメラマンのジェニングス(デイヴィッド・ワーナー)と共にローマでその出生を調査。やがてダミアンは悪魔の子だと確信する。謎解きのおもしろさに加え、視点を変えれば息子を悪魔だと思い込んだ父親の暴走を描いたサイコスリラーとしても成立する。そんな間口の広さが、多くの映画ファンを取り込んで大ヒットした要因だろう。 本作を監督したのは、のちに『スーパーマン』(78)や「リーサル・ウェポン」シリーズ(87~98)を手がけるリチャード・ドナー。当時40代半ばのドナーは、テレビ界では名の知れた職人肌の演出家。本作でもショックシーンを交えながらスリリングなドラマ運びで観る者を引き込み、映画監督としてスター街道を歩み始める。 『オーメン』と聞いてダミアンと共に思い浮かぶのは、壮絶な死を遂げる人々の描写。乳母は人々の前で首吊り自殺、ブレナン神父は落雷で折れた避雷針に体を刺し抜かれ、ジェニングスはトラックの荷台から滑り落ちたガラス板で首を切断、キャサリンは病院の窓から転落する。どれも一瞬の出来事で思考が停止してしまうほど衝撃的なものばかり。ただし流血を抑え、不快感や嫌悪感を抱かせない作りになっているところがミソで、ここにもドナーの演出家としての才覚が感じられる。 『オーメン』を語るうえで欠かせないのが、有名なテーマ曲だ。音楽を担当したのは『猿の惑星』(68)や『パットン大戦車軍団』(70)、『L.A.コンフィデンシャル』(97)など多くの作品に参加した巨匠ジェリー・ゴールドスミス。雄大な交響曲から前衛的な音色まで多彩なスタイルで知られるレジェンドである。40代半ばで手掛けた本作では、聖歌をモチーフにしたテーマ曲「アヴェ・サタニ」など呪術的な不吉さ漂うスコアを手掛け、第49回アカデミー賞で作曲賞を獲得。なお「アヴェ・サタニ」は『オーメン:ザ・ファースト』でもアレンジバージョンが使用されており、2作品を繋ぐ役割を担っている。 ※これより先は、『オーメン:ザ・ファースト』のネタバレ(ストーリーの詳細に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■6月6日、ダミアンの誕生を阻止せよ…細部まで第1作とのリンクが詰まった『オーメン:ザ・ファースト』 『オーメン:ザ・ファースト』の舞台は1971年、6月6日のダミアン誕生が間近に迫る時期である。アメリカの修道女見習いマーガレット(ネル・タイガー・フリー)は、師であるローレンス枢機卿(ビル・ナイ)の勧めでローマの修道院で孤児たちの世話をすることになった。子どもたちになじみはじめたマーガレットは、カトリック教会を破門されたブレナン神父(ラルフ・アイネソン)から修道院の少女カルリータ(ニコール・ソラス)に用心するよう警告を受ける。彼女は教会内の陰謀により“悪魔の子”の母親になることを運命づけられた少女だという。 本作でまずおどろかされるのが、ダミアン誕生が教会内の一部グループによる陰謀だという事実。第1作にも登場したブレナン神父はそれを阻止するため奔走し、マーガレットに協力を願い出る。本作内で“悪魔の子”はキリストの敵対者、反キリスト(アンチキリスト)と呼ばれているが、『Antichrist』は第1作の企画時のタイトルでもあったといわれる。悪魔を求めるグループの狙いは、教会の力を維持するため強大な敵を作ることで、60~70年代にかけ活発だったカウンター・カルチャーで揺らぐ信仰心を取り戻すためと設定されている。『オーメン』ではダミアンが権力に近づく姿が描かれていたが、そんな体制への反骨精神が『オーメン:ザ・ファースト』にも受け継がれたのだ。 ブレナンが追うカルリータの姓はスキアーナ。第1作で墓石に刻まれていたダミアンの母マリア・スキアーナと同じだが、本作でスキアーナは姓ではなく悪魔の子の母親候補に付けられた通称で、彼女以外にも過去多くのスキアーナが存在したことが明かされる。 そこで生まれる疑問が、第1作でダミアンはジャッカル(山犬)を母に生まれたとされていたこと。実際、マリア・スキアーナの棺には骨になったその遺体が収められていた。実は、ダミアンの母は人間とジャッカルのハーフで、ジャッカルそのものではないことが本作で明かされた。母は教会の手を逃れたため、ダミーの骨が埋められていたことになる。ほかにもダミアンとその母親の“666”のあざの位置を関連付けたり、ダミアン出産シーンにソーンに養子を勧めたスピレット神父が立ち会う姿が見られたりと、細部に至るまで第1作と繋がっている。 そして、本シリーズの特徴であるショックシーンにも多くのリンクが。『オーメン:ザ・ファースト』の冒頭、教会の前でブレナン神父らにステンドグラスの破片が降り注ぐさまは、避雷針に刺し貫かれるブレナン神父や首を切断されるジェニングスのシーンを暗示。カルリータと仲の良い修道女が「あなたのためよ」と呟きながら自らに火を放ち首を吊ったり、マーガレットがクラブで出会った若者が車と塀の間に挟まれ体を切断されたり…など、見事に第1作に沿っている。ちなみに死亡シーンはどれもリアルな仕上がりだが、流血描写を抑える姿勢は第1作と同様に貫かれているのでご安心を。 ■新進気鋭の才能が、名作に新たな命を吹き込んだ。舞台裏映像でより深く味わう! 『オーメン:ザ・ファースト』で監督と共同脚本を手がけたのは、これが長編デビュー作のアルカシャ・スティーブンソン。テレビシリーズの開発や脚本でキャリアを重ね、「X-MEN」のテレビシリーズ「レギオン」(17~19)などでエピソード監督を務めている。70年代のスリラーやホラーに多大な影響を受けた彼女は第1作『オーメン』にも心酔しており、「演出、撮影、演技のどれをとって完璧な映画」と称賛。「自分の子どもを理解できないことで生じる動揺が、やがてホラーに変貌していく。人間ドラマがベースになっているので、何度観ても楽しめるんです」と魅力を熱弁する。本作に流れる『オーメン』へのリスペクトは、彼女の内側からあふれているものなのだ。 第1作は父親ソーンの視点を主軸に展開したが、本作ではマーガレットの視点が貫かれている。ダミアンの誕生を「女性の体への侵害」と表現するスティーブンソン監督は、ジャッカルと人間の交配で生まれた女性たちが、そののちに父であるジャッカルに犯され、子どもを身ごもる…という忌まわしい世界を構築。スティーブンソン監督はマーク・コーヴェンのスコアに女性の息づかいや叫び声を取り込ませた。 ブルーレイに収録されているボーナス・コンテンツ「監督の視点」には、彼女が作品に込めた想いや撮影や衣装など細部まで入念にチェックする現場での様子、プリプロダクション段階で訪れたローマで得たインスピレーションなど、製作の裏側が克明に記録されているので、本編とあわせて楽しんでほしい。 本作でマーガレットを演じたのはテレビシリーズを中心に活動し、これが映画初主演のネル・タイガー・フリー。大のホラー映画ファンである彼女は、第1作を何度も観返してきたそうで、それだけに「誰かにショックを与えるだけの映画だったらやりたくなかった」と感じていたが、脚本を心底気に入り、オーディションを勝ち抜いて大役をゲットした。孤児院で育ち、枢機卿の指導のもと暮らしてきたマーガレットは、ローマでこれまでにない経験を重ねていく。彼女のどこかぎこちない言動は、はじめての大役に挑んだフリー本人が反映されていた。「アルカシャ(監督)が私のぎこちなさをマーガレットに取り入れたんです。それを基にキャラクターとして膨らませていきました」。なお、ボーナス・コンテンツの「マーガレットの秘密」には、スティーブンソン監督や共演者のコメントを含め、マーガレットのキャラクターやバックグラウンドが深掘り解説されている。 もう一つのボーナス・コンテンツ「“オーメン”の世界観」には、スティーブンソン監督のイメージ作りの原泉や、美術監督イヴ・スチュワートや衣装デザイナーのパコ・デルガド、特殊メイクのエイドリアン・モロットらスタッフたちのコメントや制作風景を収録。ローマの歴史的建築を活かした撮影や、修道女の衣装の素材を工夫して亡霊が歩いている雰囲気を醸すなど、幻想的な作品世界がどのように形作られたのかを見せてくれる。 ラストで第1作のオープニングに直結し、その後の展開にも言及している『オーメン:ザ・ファースト』は、第1作と緻密に絡みあう物語や世界観が楽しめるほか、蝋燭や白熱球を活用したノスタルジックな画作りなどの映像面も第1作のイメージに倣っている。そのため、発売中の第1作のブルーレイをゲットして、『オーメン:ザ・ファースト』ブルーレイ+DVD セットと続けて鑑賞する…というのもパッケージならではの楽しみ方だろう。 ぜひ本記事を参考に『オーメン:ザ・ファースト』を再度鑑賞し、『オーメン』へのつながりを答え合わせしてみてほしい。一度観ただけでは気づけない、新たな発見の数々がそこにあるはずだ! 文/神武団四郎