映画『ガンダムF91』実は未完の物語 予定されていた「その後」は…えっ、宇宙海賊?
「家族」と「コスモ貴族主義」による新たなガンダムの基準をめざした「F91」
映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(以下『逆シャア』)公開から2年後の1991年、新たな映画『機動戦士ガンダム F91』が公開されました。 【画像】マントでガイコツで…!? こちらが宇宙海賊「クロスボーン・バンガード」の「ガンダム」です! 劇中の時間軸では『逆シャア』の決着から約30年後、舞台も登場人物たちもリニューアルし、新たな宇宙世紀の基準「Formula(フォーミュラ)」を目指して企画された作品です。富野由悠季監督によるオリジナルストーリー、キャラクターデザインは安彦良和氏、モビルスーツ(以下、MS)デザインは大河原邦夫氏であり、初代『ガンダム』を産み出す軸となった3人が再集結しています。 さらにいえば、『機動戦士ガンダム』の映画化10周年(第1、2作は1981年公開)を記念して制作された文脈もあり、1991年内の公開はマストという意味が、「F91」には込められていたのでしょう。 宇宙世紀0123年、主人公の「シーブック」らが暮らす新興のスペースコロニー「フロンティアIV」に武装集団「クロスボーン・バンガード」が襲来し、平和だった街は戦場と化します。そして仲間のひとりである少女「セシリー」が連れ去られるも、実はセシリーが、クロスボーンを率いる「鉄仮面」こと「カロッゾ・ロナ」の実の娘だったことが判明するのでした。 やがて、鉄仮面が地球連邦に反旗を翻して新国家「コスモ・バビロニア」の建国を宣言し、戦乱が吹き荒れるなか、シーブックは新型MS「F91」のパイロットとなり、セシリーと敵味方に分かれて再会することになります。 この作品は2時間という限られた尺において、まるで10倍速再生のように「小型化しつつ、ビームシールドを備える」「モノアイではなくゴーグル風のカメラアイ」など新たなMSやキャラクターが現れては消えていくため、1回どころか2回見ても理解が追い付かないでしょう。新たな基準にふさわしく大量のアイディアが詰め込まれており、テレビシリーズで50話かけて描くことを3、4話分でやろうとして力尽きた印象です。 ただ、テーマが「家族」と「宇宙世紀の貴族主義」だったことは、分かりやすく打ち出されています。シーブックの愛機「F91」は母が開発に深く関わり、ラスボス的な存在の鉄仮面はヒロインの父です。またクロスボーンの掲げるコスモ貴族主義は、もともとの「高貴な精神を持つものが人類を率いるべき」という理念から、鉄仮面の「人だけを殺す機械(バグ)等により地球と月の人類を抹殺すること」に歪められるという構図です。 これらからは、『逆シャア』以前のガンダム作品とは一線を引こうとする姿勢が見られます。シーブックは「ガンダム」シリーズ史上初の「母親と和解した主人公」でした。また本来のコスモ貴族主義は、生まれ育ちではなく高い志により指導者になるべしという点で、選民思想に成りはてていた「ジオニズム」の限界を超えようとするものでした。その点において、鉄仮面は先祖返りといえるかもしれません。 そして鉄仮面の操るモビルアーマー「ラフレシア」が撃破され、シーブックは「想いの力」で宇宙空間を漂うセシリーを見つける感動のラストを迎え、物語はめでたしめでた……いやいや、「クロスボーン」という組織は健在だし、地球連邦は腐敗したままだし、何も終わっていないじゃないですか!