映画『ガンダムF91』実は未完の物語 予定されていた「その後」は…えっ、宇宙海賊?
富野監督が原作を手がけた「クロスボーン・ガンダム」は正真正銘の続編
それから3年後、「月刊少年エース」(KADOKAWA)でマンガ『機動戦士クロスボーン・ガンダム』の連載が始まりました。 舞台は『F91』から10年後の宇宙世紀0133年であり、留学生の「トビア・アロナクス」が乗っていた惑星間航行船が中継ステーションに停泊中、宇宙海賊の襲撃を受けます。が、実は船内には地球に運ぶ予定だった大量の毒ガスが積まれており、教官の「カラス」は「木星帝国」の手先でした。 宇宙海賊は「ベラ・ロナ(セシリー)」のもと「クロスボーン」を再編し、地球侵攻を企む木星帝国に対抗する組織でした。そしてトビアをカラスから助けた「キンケドゥ・ナウ」は、シーブックの偽名だったのです。 「原作:富野由悠季」というクレジットは正真正銘であり、富野監督が自ら手掛けたプロットをマンガ家の長谷川裕一氏に渡している上に、巻末のインタビューでも監督と長谷川氏がやり取りをしていることが書かれています。100%純粋に、『クロスボーン・ガンダム』は『F91』の正当な続編なのです。 トビアがステーションで巡り合った少女「ベルナデット」の正体が、木星帝国の総統「クラックス・ドゥガチ」の娘という関係性も、『F91』のセシリーと鉄仮面をなぞるかのようです。こちらも、父がこじらせた上に凝り固まった大人とあり、和解も歩み寄りようもありませんでした。 本作と『F91』を繋ぐもうひとりのキーマンが、前作でもクロスボーンのエース・パイロットだった「ザビーネ・シャル」その人です。前作では民間人を載せる航宙練習艦「スペース・アーク」を見のがすなど高貴な精神を持っていましたが、コスモ貴族主義への未練を捨てきれず、結局は木星帝国に投降します。が、拷問により精神に変調をきたし……アニメ『機動戦士Vガンダム』(本作連載開始の直前にTV放送)でも似た道のりをたどった人がいましたね。 そうしてシーブックとセシリー、コスモ貴族主義は最後まで余すところなく描き切られ、『クロスボーン・ガンダム』は大団円を迎えました。映画では不完全燃焼で終った『F91』のテーマは、約2年強もの連載期間、6冊もの余裕ある長さのおかげで、きっちりと完結したのです。 その後『クロスボーン・ガンダム』は『SDガンダム GGENERATION-F』などゲーム作品に登場したことで人気が再燃し、マンガ『機動戦士クロスボーン・ガンダム スカルハート』(2002年連載開始)などの外伝作品が次々と登場することになります。これらは富野監督の手から離れ、長谷川先生が単独でクレジットされる作品となりました。 ともあれ、短命のように思われた『F91』の系譜は、「ガンダムエース」2024年8月号(KADOKAWA)に掲載された読み切り作品である最新作『機動戦士クロスボーン・ガンダム 神の雷計画の真実』に至るまで、足かけ23年もの最長寿シリーズとなったのでした。
多根清史