チャーリー・ブリスは「永遠」 現代最高のパワーポップ・バンドが青春物語を歌い続ける理由
青春は永遠、チャーリー・ブリスも永遠
―「As ‘90s rock revivalists, we’re just too late(私達は90年代ロックのリバイバリスト/登場するのが遅すぎただけ)」と自虐的に歌う「I Don’t Know Anything」は、音楽業界におけるキャリア形成や独自の立ち位置を築くことの困難について歌った曲でもあると思います。実際のところ、チャーリー・ブリスはこれまでの活動でどのような困難を経験し、それをどのように克服しようとしてきたのでしょうか? エヴァ:この歌詞は『Young Enough』のインタビューの際に実際に私が言ったことなの。「チャーリー・ブリスが20年前に存在していたら世界最大のバンドになっていたはず、と考えて悔やむことはないか?」と聞かれてね。だから、自虐であり皮肉でもある。 スペンサー:僕達は時代を間違って産まれてきたってわけだ(笑)。 エヴァ:でも、全ての音楽はリバイバルを繰り返してる。オリヴィア・ロドリゴが作ったロック・アルバムは大ヒットして、彼女はブリーダーズと共にツアーをしている。未来がどうなるかなんて誰にも分からない。 ダン:それに、世界中には本当にたくさんのバンドがいるけれど、チャーリー・ブリスが到達したような地点まで辿り着いたバンドは、おそらく2%かそこらしかいないと思う。僕達はヨーロッパやオーストラリアをツアーして、シンガポールでもライブができた。それだけで十分凄いことだよ。 エヴァ:この曲を書いている時に、ストリーミングが主流の現在の音楽業界できちんとお金を稼いでキャリアを積み重ねていくのがどれだけ難しいかについて語られている記事を読んだの。アーティストがそのことについて正直に語ると、ネット上では反発を受ける場合が多い気がする。「自分自身でそのキャリアを選んだんだから、お金が稼げなくても文句を言うな」という自己責任論になってね。でも私達が経済的な不安を抱えているのは事実だし、常にプレッシャーに晒されていて精神的な健康を維持するのも本当に大変。「I Don’t Know Anything」では、そういった葛藤を綴ってみた。アルバムの大半が音楽作りへの愛を取り戻す喜びに溢れた歌だから、バランスを取る意味でこの曲をアルバムに入れるのはとても重要だった。だって、どちらも私にとっては真実だから。 ―収録曲の「Nineteen」について、エヴァさんがプレスリリースの楽曲解説で「この曲の変化形を今後もずっと書き続けていくと思う」とコメントしていたのが印象的でした。バンドとしても個人としても年齢を重ねながら成長していく一方で、10代の葛藤、青春や失恋についてのポップソングを変わらず作り続け、歌い続けることの意味、もしくは尊さはどんなところにあると思いますか? エヴァ:素敵な質問をありがとう! 私がこの世で一番好きなのはcoming-of-age story(青春物語/成長物語)で、映画でもテレビでも本でも、いつもそういった作品を探し求めてる。パンデミック中には自分でもヤングアダルト小説を書いてみたほどにね。私は愛について書くのが大好きで、人生において初めて愛に振り回されて傷付いたりした時の苦しくも尊い経験を上手く描けないかと常に考えてる。その全ての側面を1曲で描き切るのはとてもじゃないけど無理だから、今後も色々な形で描いていくことになるはず。 「Nineteen」の作曲をしたのはサムなんだけど、胸を締め付けられるような本当に素晴らしい曲だったから、これに見合うだけの最高にドラマチックな歌詞を書かなきゃと思って気合を入れたのを覚えてる。 私も『Guppy』や『Young Enough』の頃から年を重ねて、しかも婚約までしたわけだから(笑)、以前とは違った視点で愛について書けるようになったと思う。今の自分は愛の混乱や葛藤を乗り越えて、逆に当時ならば直視できなかった感情を綴ることができるようになったとも思ってる。あんなつらい経験を二度としなくて済むのは本当にありがたい(笑)。もちろん、その時の気持ちはいまだに鮮明に覚えてるし、忘れることは絶対にないと言い切れるけど。 ―「Calling You Out」のミュージックビデオでの屋上ライブは、映画『恋のからさわぎ』のエンディングでのレターズ・トゥ・クレオのライブシーンや、ビートルズの『Get Back』を想起しました。監督のアダム・コロドニーからは、このMVのコンセプトについてどのような説明を受けましたか? また、撮影時にこれらの作品/アーティストのことは意識されましたか? エヴァ:まずこれだけは言わせて。『恋のからさわぎ』は私のオールタイム・ベスト映画! そして第2位、もしくは同率1位なのが『プッシーキャッツ』。どちらの映画もレターズ・トゥ・クレオが関わっていて、だからこそ彼女達は私にとってアイコニックな存在なの。チャーリー・ブリスについて「青春映画のエンディングに屋上で演奏してそうなバンド」って言われることがよくあるんだけど、『恋のからさわぎ』が大好きなんだから、そういうバンドになったのも必然って感じ。「Calling You Out」のビデオのロケ地に着いてまず思ったのも、「これって『恋のからさわぎ』じゃん!」ってことだった。監督のアダムとしてはビースティ・ボーイズの「Shake Your Rump」とか、ウォン・カーウァイの『天使の涙』を意識していたらしいんだけど。彼のリファレンスは私達よりもハイブロウだったってわけ(笑)。 ダン:レターズ・トゥ・クレオとは以前に一緒にツアーしたこともあって、それはまさに夢が叶った瞬間って感じで嬉しかったな。 ―「Back There Now」のMVの飛行機の中で騒ぐシーンも、映画『プッシーキャッツ』に登場するデジュー(バックストリート・ボーイズ風な架空のアイドル・グループ)のMVっぽいですよね。 エヴァ:超デジュー!(笑) 「DuJour Around the World」! ダン:「Back There Now」のビデオは僕が監督したんだけど、予算がほとんどなかったこともあって、できるだけ金をかけずに色々と試してみた結果があれなんだ。GoProを車に取り付けてドライブしたり、ニューヨークの無料フェリーに乗ったりしてね。飛行機のシーンはニュージャージーに安く借りれるプライベートジェットのセットを見つけたんで、そこで撮影した。できるだけクールでリッチでセクシーな感じにしようとメールでメンバーと相談していたら、サムが「デジューみたいな感じに?」って聞いてきたから、僕は「その通り!」って返したんだ。だからデジューのことは全員が意識していたよ。 エヴァ:こういうバカなことを堂々とできるのも私達の強みだと思ってる。あのビデオで私が着ているのなんて漁網だしね(笑)。 ―前作から今作までの間に、あなた達が敬愛していたファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーもコロナの合併症で亡くなってしまいましたね。彼の死に際して、エヴァさんは自身のInstagramで「Hey Julie」の弾き語り動画をアップし、チャーリー・ブリスとしてもアダム氏に捧げられたトリビュート・アルバム『Saving for a Custom Van』で、『プッシーキャッツ』に彼が楽曲提供した「Pretend to Be Nice」をカバーしていました。数あるアダム・シュレシンジャーのカタログの中からこれらの曲をカバーしようと思った理由を教えてください。 エヴァ:私達はファウンテンズ・オブ・ウェインを本当に愛してる。ポップとロックを完璧なまでに上手く繋いだ唯一無二のバンドだし、アダム・シュレシンジャーは真の天才。「Hey Julie」はシンプルで美しい、最もスウィートなラヴ・ソングだと思ってる。私はあの曲を聴くたびにいつも泣いてしまうの。当時の私は今の婚約者と恋に落ちている最中だったこともあって、あの曲をカバーしようと思った。 「Pretend to Be Nice」は『プッシーキャッツ』のサウンドトラックで一番好きな曲。『プッシーキャッツ』のサウンドトラックがなければ、私達が今こうして音楽を作っていることはなかったと思う。学生の頃はあの映画を放課後に毎日観ていたぐらいに大好きだった。だから、彼が亡くなったと聞いた時、きちんと敬意を表さなければと思った。真の意味で私の人生を変えてくれた人と楽曲に対してね。 ―今作のアルバムタイトルは『Forever』ですが、このタイトルに込めた意味を教えてください。 エヴァ:この4~5年は私達の人生における大きな変化の時期だった。私はオーストラリアに引っ越して婚約した。サムは父親になり、スペンサーは一度LAに引っ越して再びニューヨークに戻ってきた。ダンは映像関係の新しい仕事に就いた。そんな激動の中に身を置いていると、人生の支柱は何か、決して変わらないものは何かが逆に浮き彫りになってくる。私にとって、それはバンドだった。私達のバンド。だから、私にとってこのタイトルは「Charly Bliss Forever」を意味するの。 ―日本のファンへのメッセージをお願いします。 エヴァ:とにかく私達の音楽をストリーミングしまくって、聴きまくってほしい。そこでいい結果を得られれば日本にもツアーで行けるはずだから。日本には絶対に行きたいと思っているからお願い!
Toshihiko Oka