チャーリー・ブリスは「永遠」 現代最高のパワーポップ・バンドが青春物語を歌い続ける理由
2019年春に2ndアルバム『Young Enough』をリリースしてから1年も経たないうちに新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、活動の停滞を余儀なくさせられたチャーリー・ブリス。しかし、それもバンドにとっては自分達を見つめ直すいい冷却期間になったようだ。5年という長いブランクを経てリリースされた最新作『Forever』は、パワーポップをルーツとする彼女達が臆することなくサウンドの幅を広げ、さらなる高みに到達した堂々たるエバーグリーンなポップ・アルバムとなった。そんな『Forever』のリリースを翌々日に控えた8月14日に、メンバー同士の良好な関係が伺える和やかな雰囲気の中、4人全員で饒舌にインタビューに答えてくれた。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」
再発見したバンドの絆
ダン・シュアー(Ba):ちょうど今、みんなでスタジオ練習を終えてきたところでね。バンドの状態もいい感じだよ。 ―いよいよ『Forever』がリリースされますね。おめでとうございます! 今作は前2作よりも遥かにビッグでドラマチックなサウンドスケープになっていて、バンドとして新たな地平を切り開いたと思いました。あなた達自身は『Forever』について、どう感じていますか? エヴァ・ヘンドリックス(Vo, Gt):私としては、アルバムが発売されるのがこんなに待ち遠しいと思ったことはないかも。これまでだったら作品がどう受け止められるかについて、緊張したり、不安になったり、怖くなったりしてたんだけど、このアルバムについては発売されることがとても嬉しくて興奮してる。なぜなら、この作品の為の曲を書き始めた段階で思い描いていたイメージをきちんと実現できたから。本当に私達らしい作品を作り上げられたと思っているし、みんなに聴いてもらうのが待ちきれないって感じ。 サム・ヘンドリックス(Dr):どんな評価を受けようとも、自分的には本当に誇りに思える作品ができたと感じてる。もちろんファンのみんなには気に入ってもらいたいけど、このアルバムが大コケしたとしても、この気持ちは揺るがないと思う。 エヴァ:とはいえ、今回のアルバムが超大ヒットして世界的なスーパースターになれるなら、それに越したことはないんだけど(笑)。 ダン:大ヒットすればツアーで日本にも確実に行けるだろうし。 エヴァ:そう! 日本に行くのが私達の夢なの。 ダン:知っているかもしれないけど、1stアルバムの『Guppy』は最初にレコーディングしたものを全てボツにして、もう一度ゼロから録音をやり直してようやく完成したんだ。というのは、最初のバージョンでは僕達の持ち味である楽しさだったりポップネスをきちんと表現できていないと感じたから。チャーリー・ブリスの本質はまさにそこだと思っているからね。今回のアルバムではそんな本質を最も凝縮できたと思ってる。 スペンサー・フォックス(Gt):このアルバムは僕達4人の純粋な結晶のような、最もチャーリー・ブリスらしい作品になったと思う。リリースが近づくにつれて緊張もしてきたけど、それはこのアルバムには僕達のありのままの姿が刻まれているから。だからとてもハッピーだよ。 ―ロック・バンドの類型的なサウンドに囚われずに新たなサウンドに積極的に挑戦し続けているところは、それこそブロンディのようなレジェンド・アーティストにも通じるところがあると思いました。エレクトロニック・サウンドを導入した前作の路線を推し進めて、シンセポップへとさらに強く振り切った今作に影響を与えたアーティストや作品があれば教えてください。 エヴァ:色々あるけれど、質問を聞いて直感的に頭に思い浮かんだのはハイムかな。彼女達の楽曲は、どんな曲調であろうとも、どんな楽器を使っていようとも、聴けばハイムの曲だってすぐに分かるでしょ。私達もそういうバンドになれたらと思っているし、音楽で本当に大切なのは、どんな楽器を使っているのか、どんなサウンドなのかということよりも、強いメロディと印象的な歌詞があること、そしてそこから得られるフィーリングだと思っているから。 サム:もちろんサウンドの幅を広げたいとは思っていたよ。それに加えて、このアルバムの大半はコロナのパンデミック中に作曲されたから、小さいアパートの部屋にあるキーボードを使って曲を書くしかなかったのもサウンドに影響していると思う。 エヴァ:ニューヨークで、しかもパンデミック中で皆が家にいるとなったら、ギターやドラムの大きな音を出すことができないしね(笑)。 ダン:でも、レコーディングではほぼすべての曲で本物のドラム、ギター、ベースを使っているんだ。 サム:ただ、以前のアルバムでは最初にドラムとベースを録音してから音を重ねていったんだけど、今回のアルバムではキーボードで作ったデモ音源を基に音を重ねていって、最後にドラムを録音した。普通とは逆のやり方だね。それがサウンドの変化にも繋がっていると思う。 ―前作『Young Enough』から今作までの間にエヴァさんはニューヨークからオーストラリアに移住されたそうですが、アメリカに住む他のメンバー達と物理的に大きく離れたことが、今作に何か影響をおよぼしたと思いますか? エヴァ:物凄く大きな影響があったと思う。『Young Enough』のツアーは10カ月にも及んで、私達は正直言って疲れ果てていた。もともとオーストラリアは6週間の旅行の予定だったんだけど、ちょうどコロナのパンデミックが起こって、けっきょく1年半も滞在することになった。でも、バンドのメンバーと完全に離れていたことで、私達のキャリアで起こった全てのことを、感謝の気持ちを持って振り返れるようになった。パンデミックによって人生で初めてバンドから離れて、自分達の歴史を振り返ってみて、自分の夢が全て叶ったことに初めて気付いたから。しかも自分が本当に愛している人達と共に叶えられたということに。そういう風に冷静に全体像を俯瞰する機会を得られたのは、ある意味ではとても幸運なことだった。 そんな気持ちから「Waiting For You」のような曲が生まれたの。バンド仲間の為に、バンド仲間についての曲を作らなきゃと思ってね。私がサムとスペンサーとダンのことをどう思っているか、どれだけ彼らを愛しているかという曲を。チャーリー・ブリスでは私が経験した様々な人間関係や恋愛関係について歌ってきたけれど、私の人生で最も長い人間関係はバンド仲間とのものだって気付いたから。あれだけ恋愛関係について赤裸々に歌ってきたのに、人生最大の人間関係について歌わないなんてどうかしてる。だから「Waiting For You」はとても大切な曲。 それと、『Forever』は1stアルバムの『Guppy』にとても似ているようにも感じている。『Guppy』を作っている時は、とにかく自分達が本当に最高と思えるものを作り上げよう!ということにひたすら集中していた。でも、前作の『Young Enough』の時はアルバムを作ることに大きなプレッシャーを感じていたせいで、私達4人の間の繋がりを見失っていた気がする。今回のアルバムではサムとスペンサーとダンと一緒にバンドができる喜びを改めて感じて、『Guppy』の頃の自分達に戻ることができた。他人は関係ない、何が起ころうとも自分達が本当に誇りに思えるレコードを作ろう、という心持ちに再びなれた。そして、実際にそういう作品を作り上げられて嬉しく思ってる。 ―今回のアルバムで特にこだわったところを教えてください。 サム:パンデミック以前の僕はAppleのGarageBandを使っていて、EQの使い方もあまり分かっていなかった。だからパンデミックの期間中に色んなプラグインを買って、音楽制作についてきちんと勉強してみたんだ。そのおかげで曲作りの幅を広げることができたと思う。以前の僕はギターを弾いて曲を作ったら、その後のアレンジは運任せみたいなところがあったんだけど、サウンド・プロダクションについての知見を深めたら、そもそもの曲作りがとても楽になった。だから僕にとってはサウンド・プロダクションとソングライティングの両方かな。 エヴァ:私はやっぱり歌。オーストラリアの田舎に引っ越して車を手に入れたことで、遠慮せずに大きな声で歌いながら曲を書いたり練習できたりするようになって、歌うことの楽しさを再発見した。それがアルバムでも活かされていると思う。 スペンサー:パンデミックの最中にサムと何度か話し合って至った結論としては、あの楽器やこの楽器を使わなければいけないといったサウンドの雛形ありきではなくて、エモーションやフィーリングを重視していきたいということだった。だから、今作では楽曲に込められている感情を最も簡潔かつ真摯に伝えるにはどうすればいいかを第一に考えてサウンドを構築していった。そのおかげで、以前よりも純粋な表現ができるようになった気がしている。 ダン:パンデミックやエヴァのオーストラリア移住の影響もあって、今作ではこれまで以上にバンドが一致団結する必要があった。そして、結果としてそれがきちんと達成できたと思うよ。