会話のきっかけに 「今日」を描き続ける福岡市・六本松の眼鏡屋さん
掲示板の絵は、毎朝30分から1時間ほどかけて開店前に仕上げる。まずは何かの記念日ではないかを調べ、特に見当たらなければ、時事ニュースや地域の出来事から題材を見つける。「何を描くか、事前に決めることはほとんどありません。気ままに好きなようにやっているから、10年も続けられているのでしょうね」
店を訪ねたのは8月27日の朝。この日が、映画「男はつらいよ」シリーズの第1作が公開された記念日だと知った大島さんは、テーマを「寅さん」に定め、インターネットで見つけた画像を参考に、カラフルな水性ペンを走らせた。
これまでで会心の一枚を聞くと、「ロックの日」の絵だという。「動き、表情、目線のいずれも100点ですね」。このときは1時間以上かかったそうだ。出来栄えに満足したり、納得いかなかったり、いろんな朝があるが、「表に出すのは一日だけ」と割り切る。ちなみに、この日に描いた寅さんの完成度は「60点」とのことだった。
地域のつながりを
店先を掃除していると、「誰が描いているのですか? 」「いつも見ています」と声をかけられることがあるという。「そんなときは特にうれしいですね」と大島さん。絵に興味を持って、店に入ってくる人もいるそうだ。
道行く人がクスッと笑ってくれたり、「へぇー」と思ってもらえたり、そんな話題を選ぶ。「見て嫌な気分になるものは描きたくない」と悪いニュースや悲しい事件は避けるが、例外もある。2022年、ロシアによるウクライナ侵攻がそうだった。「描きたくない」より「やめようよ」という思いが勝り、早期終結への祈りを込めてペンを握った。
九大跡地には複合施設「六本松421」が誕生し、2023年には福岡市地下鉄七隈線が博多駅まで延伸した。大島さんは「人のにぎわいは九大があった頃の8割くらいまで戻ったのでは」と話し、「新しい人たちが増えてきましたね」とほおを緩める。
一方で、人と人のつながりは薄れたと感じている。だからこそ、微力であっても、毎朝描いて店先に出す掲示板が「地域のことに目を向け、地元愛を深めてもらうきっかけになれば」と願う。
読売新聞