〈民主党には追い風?〉副大統領候補指名で共和党は「トランプ党」へ一直線か、J.D.バンス改宗への歩み
トランプ主義者として選ばれたか?
バンスは才能に恵まれ賢い人物のようである。しかし、彼は、自分は「never Trump guy」だと言っていたことがある。トランプは「アメリカのヒットラー」かも知れないと思ったこともある。トランプ主義は「文化的ヘロイン」だと断じたこともある。 彼はその後トランプ主義に改宗した訳であり、オポチュニスト(ご都合主義者)のようである。自分が 2021年1月6日に副大統領であったならペンスがやったようには 2020年選挙を認証することはしなかったであろうと述べるなど、トランプに恭順であることが彼の将来を拓くと思っているに違いない。バイデンは彼をトランプのクローンだと評した。 副大統領候補を選択する基準はトランプに忠実なトランプ主義者であることだけではない筈はずであるが、それが唯一の基準であった如く見える。
第一に、バンスは激戦7州のいずれの出身でもない。第二に、MAGA の岩盤支持層を超えて支持拡大を目指すのであれば、中間層に訴え得る少なくとも自分よりは穏健と見做される人物を選択すべきであろうが、バンスではこの目的に合致しない。第三に、2016 年の選挙では経験豊富な政治家ペンス(下院議員と知事を経験)を副大統領候補に選び、トランプの足らざるところを補ったように見えるが、39歳で昨年上院議員になったばかりのバンスにその役割は期待し得まい。ニクソンがアイゼンハワーの副大統領候補になったのも39歳の時だったが、彼は上院・下院議員としてもっと政治経験を積んでいた。
注目される民主党の選挙戦略
以上のように見れば、二つのことを指摘し得よう。第一に、トンプは、暗殺の危機からの生還で生じたモメンタム(一部では彼は神の手に守られた救世主らしい)を維持してこのまま進めば、勝てると確信したのかも知れない。第二に、(勿論もちろん、トランプの第二期の成否によることであるが)トランプ主義の松明はバンスによって今後長く引き継がれる怖れが出て来た。これは、トランプが退場すれば、共和党は伝統的な共和党に回帰するであろうと期待していた向きには悪夢に違いない。 反面、バイデンと民主党はバンスの選択に安堵したであろう。バンスなら攻め易い。トランプの副大統領候補は最終段階でバンス、上院議員マルコ・ルビオ及およびノースダコダ州知事ダグ・バーガムの3人に絞り込まれていたようであるが、トランプは最も波乱含みの人物を選択したことになる。ダグ・バーガムは現実的な人物らしく、少なくとも 彼が選ばれていれば、民主党にとってはより戦いにくかったであろう。
岡崎研究所