石破茂氏に捨て駒としての価値を見た自民の冷徹 沈没の危機に瀕した党が繰り出す奥の手が炸裂した
石破氏は長い「冬の時代」、「人間改造」を心掛け、「理詰め」を超克したのか、それとも「理詰め」を逆手に取ってそれを政治生命維持の武器にしてきたのか、その点は今も不明だが、思いがけず「春」がやってきた。 2023年秋、「派閥とカネ」の問題で、自民党が沈没寸前の漂流政党に落ち込むという大危機に直面する。病根は派閥政治だから、派閥を解散して無派閥に転じていた石破氏は好機を手にした。奇跡的にワンチャンスをものにして政権の座に到達したのである。
「不運」イメージだった石破氏になぜ突然、好運が舞い込んだのか。何よりも総裁選のほかの候補と違って、これが唯一・最終のワンチャンスと見定めて臨んだ石破氏の「本気度」が決め手となったのは疑いない。 ただし、「自民党は今なぜ石破氏を選んだのか」という疑問が消えない。カギは自民党史の裏側に潜んでいる。2025年11月に結党70年を迎える自民党で、総裁選は第1回の鳩山一郎元首相を選出した1956年4月から数えて今回が35回目であった。
そのうち、17回は無投票選出か実質的に無投票の信任投票で、18回が投票で勝敗を決する総裁選方式によって選ばれた。過去18回の実質投票による総裁選で、決選投票が計8回あり、そのうち、逆転勝利は1956年12月の石橋湛山元首相(敗戦は岸氏)、2012年9月の安倍氏(敗戦は石破氏)に次いで、今回が3回目である。 ■首相を使い捨てて与党であり続ける 過去の総裁交代劇を振り返ると、自民党には、党が沈没寸前の大危機に陥ったとき、「いつもこの手で危機脱出」と見る常套手段の「奥の手」が一つある。それは「表紙の取り替え」と「首相の使い捨て」だ。
危機で立ち往生する総理・総裁は、有無を言わせずにさっさと交代させ、トップをすげ替える。そうやって、国民の批判の嵐をくぐり抜け、新時代を装って新型のリーダーを担ぎ出す。党の体質や構造など、本質部分の変革が不可欠とわかっていても、変革に伴う失敗や党分裂のリスクを巧妙に避け、いわば古本の表紙だけを替えて、新本に見せる。 2024年8~9月の沈没の危機で、自民党は今度も「奥の手」に頼った。新しい表紙は無派閥政治家に、という大合唱に乗って、石破氏、高市氏、小泉進次郎元環境相が浮上した。