石破茂氏に捨て駒としての価値を見た自民の冷徹 沈没の危機に瀕した党が繰り出す奥の手が炸裂した
■石破氏は田中角栄直系の現役政治家 石破氏は田中氏から「民意を知り、民意を実現するのが政治、という姿勢を学んだ」と語った。田中政治といえば、「金権」「派閥第一」「利権政治」の残像が強い。半面、「戦後民主主義」「民意重視」「列島改造」といった角栄流政治も見落とせない。今も「角栄人気」が根強いのは「プラス面での角栄流」が支持されているという背景があるからだ。 石破氏は小沢一郎元民主党代表らと並んで、今や数少ない田中直系の現役政治家で、角栄流を肌身で知る政治リーダーである。「民意との結託」や「地域活性化による日本再生」などの石破氏の姿勢と路線は角栄流の影響が色濃いと映る。
一方、石破氏は「安保・軍事オタク」と呼ばれるように、自他共に認める政界有数の安保問題専門家だ。もう一つの特徴は「理詰めの人」である。インタビューでも「何でも自分で抱え込む。どうしても理屈が先に立つ。理屈で納得しなければやりませんので」と自己分析を披露した。 ■これまで石破氏には「運」がなかった 「理屈の壁」が災いした感もあって、石破氏は安倍内閣時代の2016年8月以降、計8年、無役となり、「冬の時代」を送った。2012年9月の総裁選の決選投票で安倍氏に逆転負けして政権を逃してからは、「不運の政治家」のイメージが定着した。
2024年8月14日に岸田首相が9月の総裁選への不出馬を表明したとき、真っ先に思い出したのは、2022年7月8日に不慮の死を遂げた安倍氏がその約1カ月前、都内の会合でのスピーチで口にした言葉だ。政治のトップリーダーが具備すべき条件として、笑いながら「運と多少の人柄」と述べた。 首相の座を担うには、「運」「人柄」だけでなく、「実力」が必要だが、安倍氏の言葉どおり、「運」と「人柄」も不可欠の要件だろう。その点でいえば、今回の2人は総裁選前、政界では石破氏は「運がない」、高市氏は「人柄に難あり」という評が多かった。