ホルモンのイメージ一新!!朝締め9種盛り、好事家にとって極楽浄土のような光景 東京・恵比寿「ホルモン焼 婁熊東京」
【肉道場入門!】絶品必食編 人は「ホルモン焼」という文字から何を想像するだろうか。一昔前なら、煙の染みついたカウンター席で赤ら顔の男性が「ホルモンってのは『放るもん』だからホルモンなんだぜ」と間違ったうんちくを披露する。そんな雰囲気があった。多少のクセはあるが、旨くて気安い。それがホルモン焼きという大衆食だった。 ところがそんなイメージをひっくり返すような、美しい味わいが東京・恵比寿の「ホルモン焼 婁熊(るくま)東京」にはある。提供される豚ホルモンは鮮度抜群で、いやな臭みとは無縁。それどころか、いい香りすら立ち上ってくる。 とりわけ毎週水曜日は肉好きがひっそりと、しかし争うように足を運ぶ、魅惑の限定コースの日だ。20人限定で提供される「天城黒豚」のコースは、朝締めの内臓を中心に豚肉のすべてが味わえるホルモン好きには夢のような構成となっている。 まずは旨味の濃厚なももハムをつまみにビールやハイボールで喉を潤す。続く透き通るような味わいと美しい香りの「天城黒豚モツ煮込み」に煮込みの概念を覆される。 炭火でじんわり温められた「新鮮レバテキ」は「レバーはちょっと…」と苦手そうにしてた友人が少しバツが悪そうに次々に箸を伸ばしていた。そんな光景さえも微笑ましくなる。 ハイライトは「朝締めホルモン9種盛り合わせ」だ。チレ(脾臓=ひぞう)やコブクロ、レバーの網脂包みなど9種類のホルモンを盛り合わせた、好事家とっては極楽浄土のような光景が展開される。すべてその日解体された新鮮極まりない内臓肉。9マスに区切られた宝石箱のような皿の上から取り上げて、炭火で焼き上げる極彩色の肉は清く美しく、深い味わいだ。 ちなみにこの限定の「天城黒豚」とは豚肉に心血を注ぐ、神奈川県の金子畜産が育てるブランド黒豚のこと。 通常豚は約180日の肥育を経て出荷される。しかしこの黒豚は240日以上の肥育期間を経て出荷される。小欄の読者ならご存じだろうが、畜産物は長く飼ったほうが味が乗る。 「婁熊東京」で出合うホルモンの味わいは清冽(せいれつ)にして濃厚。書くだけで味の記憶が鮮烈に甦(よみがえ)る。それにしても本稿を書いているとこう思う。「ああ、食べたい」と。そして今日も紙幅が足りない。
■松浦達也(まつうら・たつや) 編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しい。新著「教養としての『焼肉』大全」(扶桑社刊)発売中。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。
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