【ふくしま創生 挑戦者の流儀】古川プラスチック(福島県会津若松市)社長・古川孝治(中) 漆器材加工 技術で勝算
福島県会津若松市河東町の古川プラスチックは1990年代後半、会津漆器の受注に目を向け始めた。当時の卸業者からは、安価で大量に仕入れられる家庭用、贈答用のおわんが求められていた。それまで漆器材に用いられていたプラスチック加工は「熱硬化性」が主流。重厚感があり、耐熱性や強度には優れるが歩留まりが低く、成形までに時間がかかるのが課題だった。 古川プラスチックには、この分野で勝算があった。長年手がけてきた「熱可塑性」の加工技術は熱硬化性と比べ、材料ロスを抑えられ、成形までの時間が短い。地元の漆器卸や大手量販メーカーに販路を浸透させていった。現在、漆器をはじめとする日用雑貨が会社の生産全体の9割以上を占める。 とはいえ、経営を安定させるまでは順風ではなかった。低価格製品の受注ばかりでは単価の引き上げは見込めない。2013(平成25)年、父の孝吉(故人)から経営の一切を託された現社長の古川孝治(60)は最新の成形機導入による差別化を決意した。
2016年度に国のものづくり補助金に初めて応募した。結果は2度にわたる不採択。「もう、ダメもとだ」と賭けた3度目でかなった。「もう少し早ければ父に報告できたのかな」。採択の知らせは父を亡くした1カ月後のことだった。 導入した油圧と電気のハイブリッド式射出成形機は従来の成形機と比べ、5%ほどあった不良率を限りなくゼロに低減でき、消費電力のコストも抑えられた。再生材の「ペット樹脂」を活用でき、環境的な観点からも訴求できる強みが受注先からの信頼獲得につながった。 新型コロナウイルスの感染拡大を機に次々と成形機や取り出し機などの設備を更新した。古川は「コロナの影響は長くても5年」と見切り、先行投資に打って出た。工場内は現在、最新鋭の5台が全自動で稼働している。古川は「小さな工場だが、技術力、コスト面なら負けない」と言い切る。 ただ、どこか社業に物足りなさを感じていた。受注先から金型を借用し、要望通りの部品を相手先ブランドとして供給するOEMが中心だったからだ。「自らが考えた製品で、地域に貢献できるものを作りたい」。自社ブランド商品の生産に動き出した。(文中敬称略)