北方領土問題 今後の交渉で日露政府に求められることは
共同宣言以降の交渉の積み重ね配慮されず
最大の問題は、この方針が1956年以降の「重要な進展」を無視している点にあります。具体的には、日ソ共同宣言には、平和条約締結後に歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の2島引き渡しに関してしか記載されていませんでしたが、その後、1973年の田中角栄首相とブレジネフ書記長との合意、1991年の海部俊樹首相とゴルバチョフ書記長の合意を経て、1993年の細川護熙(もりひろ)首相とエリツィン大統領による東京宣言で、「択捉(えとろふ)島、国後(くなしり)島、色丹島および歯舞群島」の、いわゆる北方4島が明記され、しかもその「帰属に関する問題を解決する」ため交渉することになっていました。 今後、日露双方とも、日ソ共同宣言のみならず、過去の両国間のすべての合意を基礎に交渉するとの立場に戻るべきです。2001年、プーチン大統領は森喜朗首相との間で「93年の東京宣言に基づき、四島の帰 属に関する問題を解決することにより平和条約を締結すべきことを再確認した」と合意しています(イルクーツク声明)。つまり、プーチン大統領としても元々は日ソ共同宣言以外の合意を受け入れる用意があったのです。 あせらずに4島の帰属問題を解決するというこれまでの交渉で積み上げられてきた原点に立ち返って交渉を進めるべきです。
アメリカを日露間交渉に引き入れるべき
そして北方領土問題の解決には、米国を日露間の交渉に引き入れることが望まれます。その理由は、第2次大戦終結以来、米国は日露間の領土問題に、どの国よりも深く関与してきたからです。 もう一つの理由は、北方領土が日本に返還された場合に米軍基地が置かれるのではないかという疑念をロシア側が強め、その点の解決も必要だと主張しているからです。この問題は日米露3か国にかかわる問題です。 米国は簡単に応じないかもしれませんが、北方領土問題は米国が完全な第三者的立場でないので、日本としては粘り強く説得すべきだと思います。
------------------------------------ ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹