北方領土問題 今後の交渉で日露政府に求められることは
北方領土交渉をめぐり、ロシア側からの「日本側に引き渡す計画はない」などの意向が報じられています。昨年来、平和条約締結後に2島を日本に引き渡すことなどを記した「日ソ共同宣言」をベースに交渉が進められてきましたが、大きな進ちょくはみられせん。今後の北方領土交渉において、日露両政府に求められるものは何か。元外交官で平和外交研究所代表の美根慶樹氏に寄稿してもらいました。 【地図】突然の北方領土占拠 “千島”がほしいソ連に口実を与えた「ヤルタの密約」
G20大阪サミットでも進展はみられず
74年前の8月8日、ソ連は突如、日本との戦争に参戦しました(実際に行動を開始したのは9日)。ソ連は日本と中立条約を結んでいましたが、一方的に破棄したのです(破棄の宣言は4月)。それから1週間後の8月14日、日本は「ポツダム宣言」を受諾し、連合国に対して無条件降伏しました。 終戦とともに、ソ連軍は北方領土の占領を始めました。他の連合国は日本との間で「サンフランシスコ平和条約」(1952年4月発効)を結び、領土問題を含めた戦争で生じた諸問題を解決。日本は晴れて独立国となりました。しかし、ソ連は同条約に参加しませんでした。日本との戦争状態は1956年の「日ソ共同宣言」で終了しましたが、ソ連による北方領土の占領は未解決のままであり、現在に至っています。 安倍晋三首相は北方領土問題の解決に熱意を持って取り組んでおり、ロシアのウラジミール・プーチン大統領と何度も会談を重ねてきました。 大阪でG20(20か国・地域)首脳会議(サミット)の最終日である29日夜も、プーチン大統領と通算26回目の会談を行いました。しかし、この会談でも北方領土問題について進展はありませんでした。 あらためて日露双方の姿勢を再確認し、今後の展望を試みたいと思います。
「固有の領土」表現など避ける
安倍首相は、今回のプーチン大統領との会談に先立って、国会答弁や記者会見などで「北方四島」や、「日本固有の領土」といった従来からの表現を使わないようにしてきました。 また、さる6月20日にはロシア軍の爆撃機が4年ぶりに日本の領空を侵犯しましたが、こういう場合にいつも行っている抗議をしませんでした。プーチン大統領が領土問題についてロシアの国内世論から強い圧力を受けていたのは明らかであり、安倍首相としては交渉にマイナスになるようなことは、できるだけ排除しておこうとしたと考えられます。 一方、ロシアのプーチン大統領は6月22日に放映されたロシアの国営テレビのインタビューで、「(北方領土を日本に引き渡す)計画はない」と述べました。プーチン大統領は日本との領土問題で譲歩する考えがないことをそれまでに何回も発言していましたが、今回、G20大阪サミットでの安倍首相との会談を前に、あらためて強い姿勢を示したのでした。 会談内容の詳細は公表されていません。会談後の記者会見における安倍首相とプーチン大統領の発言を比べると、ニュアンスがかなり違っているように聞こえる部分もありました。いずれにせよ、両首脳ともに平和条約交渉が進んだことを示す発言はしませんでした。これまでの交渉経過を多少なりともフォローしてきた人からみれば、今回の会談で平和条約締結に向けた交渉が進まなかったのは明らかでした。 昨年11月のシンガポール会談以降、両首脳は「1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を進める」という方針で進んできましたが、時間が経てば経つほど状況は悪化してきたと思います。