津波避難の第一歩とは──南海トラフなどの巨大地震に備えて
津波避難の基本が歩くことと聞いて、またあの話かと感じられた方も多いかもしれない。つまり、「車での避難は渋滞の可能性もあり危険です、徒歩で逃げましょう」という話だ。もちろん、この点も津波避難を考える上で大切なポイントの一つではあるが、今回の話はちがう。 今回のメッセージは、体調に問題ない方は普段から意識して歩きましょうということだ。どうしてこれが津波避難と関係するのか。順を追って説明しよう。 最大でM9クラス 南海トラフ巨大地震ってどんな地震? 東日本大震災の映像を目にした人ならだれでも、津波対策の基本は、津波が及ばない高台や丈夫な建物の高層階への避難であることを理解できるだろう。その意味で、津波避難の原理・原則は単純で、津波が襲来する前にそうした場所に身を置くことができれば、命だけは確実に守ることができる。 しかし、そう簡単に事は運ばない。たとえば、近い将来の発生が心配されている南海トラフの巨大地震の場合、太平洋沿岸の広い地域に、最悪のケースで、わずか数分から15分程度で津波が押し寄せる。真夜中で熟睡していても、お風呂に入っていても、大地震発生から数分後には高台や高層階にいてくださいと言われては、防災意識や危機感が高まるというより、あきらめの声が聞こえてくるのも無理はない。
避難場所まで、所要時間を計りながら逃げてみる
こんな声を踏まえて、私たちは高知県四万十町興津地区という集落で、「個別避難訓練タイムトライアル」と呼ぶ取り組みを始めた。避難訓練には多くの人が参加することが多いが、この訓練は個人または家族で行う。訓練者は、自宅の居間などから避難場所まで、所要時間を計りながら実際に逃げてみる。その一部始終を私たちがビデオカメラで撮影する。また訓練者はGPS(現在位置を測れる装置)をもっていて、何分後にどこにいたかが、後から地図上に表示される。 以上の結果を、「動画カルテ」と呼ぶ映像にまとめる。動画カルテには、上述のカメラ映像や地図が映しだされており、地図には津波浸水シミュレーションの映像が訓練者の動きと重なって表示される。だから、たとえば、「ここまで逃げたときに、自宅にはすでに津波が押し寄せてきている、間一髪だった」といったことが一目瞭然でわかる。