熊本ではお屠蘇でおなじみの赤酒が… 人気ラーメン店のスープの「たれ」や唐揚げの調味料に 素材のうまみ、コク引き立てる 戦時中は製造途絶え、戦後は料亭から発信 <東京赤酒ストーリー>
原料となる米が手に入らなかった戦時中、赤酒の製造は途絶えたが、戦後はお神酒[みき]やお屠蘇向けに復活した。1957年、熊本の料亭で働いていた大阪の料理人が赤酒の魅力に気付き、瑞鷹に東京への売り込みを提案。東京の調理師会を通じて日本橋や銀座、赤坂などの料亭で使われるようになると、そこで修業した板前が全国の料理店へさらに広げていったという。 ◆コスパも魅力 時代とともに老舗料亭が徐々に姿を消すと、20年ほど前からは大手のコンビニや総合スーパーで弁当や総菜といった「中食」向けに赤酒を使うケースが拡大した。瑞鷹赤酒東京店の吉竹照明支配人(62)は「大手メーカーの弁当や総菜は有名店の板前による監修も多く、その縁で赤酒の存在が浸透したのではないか」とみる。 関東や関西を中心に242店を展開する大手スーパー西友は2023年11月から、自社工場で製造する唐揚げに赤酒を使い始めた。「味にコクが出るのはもちろん、鶏肉にもみ込むと臭みがとれ、冷めても柔らかく仕上がる」と惣菜部の大谷舞さん(45)。とり天や煮物といった他の総菜にも使い、全国の自社工場で年間約1万本(1・8リットル換算)の赤酒を消費する。みりんと料理酒を使わずに済むのでコストパフォーマンスの良さも魅力となっている。
一部の商品には「熊本県産赤酒使用」の販促シールを付けて販売している。赤酒の知名度は必ずしも高くないが、「手に取った人が赤酒に興味を持つきっかけになるし、原材料へのこだわりをアピールできる」と胸を張る。 ◆普及に追い風も 12月初め、日本の「伝統的酒造り」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。赤酒は家庭用調味料としての伸びしろを残すだけに、登録は知名度アップには追い風だ。瑞鷹の吉竹支配人は「全国の家庭で使ってもらえるよう、赤酒ならではの魅力をもっと広めたい」。2025年の飛躍を狙う。(中尾有希) <赤酒> 日本に古来伝わる「灰持酒[あくもちざけ]」の一種。米を原料に、清酒と同じような工程で仕込むが、保存性を高めるため、もろみに木灰を加えることが特徴。平安時代の「延喜式」にも宮中の儀式酒として記録がある。江戸時代には熊本藩から「御国酒[みくにしゅ]」として保護された。戦時中は製造が途絶えたが1950年に再開され、現在は瑞鷹と千代の園酒造(山鹿市)の2社が製造する。発酵過程で生まれるアミノ酸などにより、うまみや上品な甘さがあり、料理に照りやつやを加えたり、素材を柔らかく仕上げたりできるという。