「管理職=罰ゲーム」にしたのは会社か、若者か。割に合わないとされる管理職経験の「大きな価値」とは
◆「管理職への抜てきの仕方」「教育体制」は適切か
また、最近の「管理職=罰ゲーム」という見方の原因に、管理職への抜てきの仕方(経緯や教育の有無など)の問題はないだろうか。 つまり、職場や職場環境が管理職を育てるという基本的なあり方が抜け落ちている会社が増えてきてはいないか。 例えば、良い管理職の下で仕事をした部下は、良い管理職になるものだ。 手本がいたこと、そしてリーダーと一緒に働く際に必要なフォロワーシップ(チームの成果を最大化させるために、自律的・主体的にチームリーダーや周りのメンバーに働きかけて支援すること)を学べたことで、いずれ自分が管理職になった時に、どのようなリーダーシップを発揮すべきか、そのイメージがつきやすくなるためだ。 職場は管理職になるための教育も適切に行わなければならない。それまでプレーヤーとして貢献してきた社員を何の教育もなしに突然管理職に抜てきし、力を発揮せよというのは丸投げにすぎない。 最近は、業務のオンライン化が進み、社内の人間関係が希薄になってもきている。 その結果、上司と部下の人間関係が深まっていないため、管理職になって部下の管理をすることは昔以上に負担に感じやすくなっているだろう。 一昔前ならば、初めて管理職になって自分の部下を持った時には部下を飲みに誘って、相手におごってあげながら互いの距離を縮めた経験を持つ中高年世代は多いはずだ。 今の時代、そのようなこともやりにくくなっているに違いない。
◆管理職を罰ゲームではなく、「魅力的な役職」と認識してもらう
大企業の社員を中心に、日本の職場では平社員を10年から15年にわたり経験する人が多い。この長い期間を通して「管理職はワリが合わない」と感じるようになる人もいる。 海外では、1つの仕事を5年もすれば何らかの形で管理職(職場のリーダーになり、マネジャーという肩書がつくなど)になる人が多く、20代で管理職になることは全く珍しいことではない。 日本でも小・中規模の会社やベンチャー企業、外資系企業では平社員として長く働く必要はなく、早期に管理職に抜てきされている人は多い。 小さな組織のリーダーだとしても管理職として働くことでさまざまな経験を積み、手本となる先輩から指導を受けるなど、キャリアを自らの手でデザインするつもりで主体的な行動を習慣づけることは大切だ。 若いうちに管理職に挑戦できる環境に身を置いて実績を重ねること、つまり年功序列に頼らずに自分の力で自分の給料を上げていくことを実感できるとなおさら良い。 若いうちから“コスパ”“タイパ”を追求して「ゆるく」働くことを目指すより、若いからこそ、管理職経験を通して成長の機会を得ることに大きな価値がある。 若い世代が理想とする「部長付」や「課長付」も、本来的には管理職になるための訓練を受けたベテラン社員たちであり、管理職予備軍である。管理職になる資質や能力がないのではない。 確かに部下の管理や部署の結果責任を部や課を代表して1人で負うことはないが、いつでも現在の部長や課長の代わりに管理職になる心づもりが必要なポストである。 部長や課長を補佐し、時には部長や課長の役割を一部代行することもある。 結果として、部長や課長にならない部長付や課長付も数多くいるが、スポーツチームの運営と同じで、代表選手には控え選手がいるからこそチームは勝利できるのである。 DXやAI技術も進み、業務の効率化が可能になってきている。職場としては、社内稟議などの手続きの煩雑さを解消し、無駄な会議を減らすなどして管理職の負担を減らし、もっと管理職の仕事の魅力を高める努力に取り組む必要があるだろう。 管理職を目指すことは成長の機会を得ることであり、多くの人にとって自己実現の場になれば、組織に健全な競争状態を取り戻し、若い世代がもっと管理職を目指してくれるようになるのではないだろうか。
小松 俊明(転職のノウハウ・外資転職ガイド)