働くのは何のため? 働いて「お金持ち」になればなるほど幸せになれるのか
お金があればあるほど幸せになれるのか
もちろん、現在の日本の社会では、お金を一定程度もっていないと満足のいく生活を送ることは限りなく難しいと思います。その意味では、私たちの幸せのための「必要条件」として、衣食住+趣味や交際費にかかるだけのお金、というのは欠かせないと言えます。さらに、がんばって働くことで収入が増えていけば、それに応じて生活全体の質が上がっていくことでしょう。 私の教える高専には、休みの日にはたくさん予定を入れてアルバイトをし、時給の数円の違いにも敏感になる学生も多くいます。「スタバに行って新作のフラペチーノを飲みたい」「好きなバンドのライブのチケットが少しでもいい席でほしい」「新しいゲームが欲しい」など、それはまさに自分自身の幸せのための必要条件としてのお金を手にするためだ、と言えそうです。 ですが、「お金があればあるほど幸せなのか」と問われるとどうでしょうか。お金持ちになればなるほど私たちの幸福も増していくのでしょうか。たとえば、たくさんテレビに出ている芸能人のほうが、収入が多いから私よりも幸せで、それよりも多くのお金を稼いでいる大企業の経営者のほうがさらに幸せなのでしょうか。 2010年ごろアメリカの大学によって発表された研究報告によれば、収入の増加がもたらす幸福感はある一定のラインまでで満たされてしまう、と言います()。この報告は私たちの実感とも近いのではないでしょうか。確かに、生活するのに手一杯で自由に使えるお金が少ない状態は、ときに私たちに苦痛をもたらし、自由を奪います。それでも今の私には、仮に年収が2000万円から3000万円に上がったとして、それに合わせて自分が幸せになれる、というイメージはなかなか湧きません。 つまり、私たちの生活の実感から考えるならば、もちろん収入は少ないよりも一定程度は多い方がよい=お金が少ないことは私たちに苦痛や不自由をもたらす。だけれども、収入が増えれば増えるほど、私たちの人生の幸せもどこまでも増していくかと言えば必ずしもそうではない── ということになります。