映画監督・穐山茉由。ブランドPRとのWキャリアという「個性」からの挑戦
婚約破棄を決断して気がついた自分の本心
もうひとつ、穐山さんが映画監督の道に飛び込んだことを語る上で避けて通れないのが、婚約破棄の経験。婚約者の転勤に伴い、会社にも辞職を伝えた矢先の29歳の出来事だった。「ちょうど映像制作のワークショップに参加して興味を抱き始めてもいました。家庭に入ったらやりたいことができなくなるかもしれないという違和感や、仕事をやめて知らない土地で暮らすことの不安が徐々に膨らみはじめ、価値観の違いを話し合いで解決できない状態に。『後戻りできなくなる前に結婚するのをやめよう』と腹をくくったんです」。親からの「早く結婚してほしい」というプレッシャーもあったし、彼女自身も「結婚はするものだ」と思ってきた。よくある世間の“こうあるべき”という価値観を、反発しながらも受け入れてきた人生だったという。「見えない何かにずっと遠慮して生きてきたのですが、婚約破棄を決断した瞬間に『自分の本心に従って決断してもいいんじゃん!』と気づいちゃったというか。今思うと当然のことですが、その時は目からウロコ。めちゃくちゃ気持ちが楽になって、本腰を入れて映像を勉強しようと決意しました」。 婚約破棄に伴い「やっぱり辞めるのをやめます」と会社に謝罪すると、「戻ってくるような気がした」と明るく受け止めてもらえた。ハートが燃える楽しいほうを選ぶ好奇心が「にじみ出ちゃっていたのかも」と、穐山さんは可笑しそうに振り返る。現在は週2日出社して商品のリース業務を行い、それ以外の日は映像制作に費やす。「週2日だとできる仕事も限られますが、社歴も長いので、会社との信頼関係のもとに、両立しやすい契約形態に変更させてもらいました。本当に恵まれているし、今のバランスがちょうどいいんです」。PRと映画監督のWキャリアは、今や穐山さんの個性のひとつ。今後PRの仕事を手放す可能性を尋ねると「今以上に映像制作に意欲的になったら、会社を卒業するタイミングも来るかもしれません」と語る。選択する自由を手にした彼女の言葉には、人生に責任を持つ覚悟と強さがにじんでいた。