大関昇進の貴景勝は横綱になれるのか?
そんな厳しい条件に加え、貴景勝の独特の取り口も不安要素になる。まわしに一切こだわらない、極端な突き押し相撲。押し相撲はただでさえ連勝、連敗の多い「連相撲(つらずもう)」になりがちだ。リズムが1度狂えば、立て直しが効きにくい。貴景勝の場合、直近3場所で連敗は春場所での2連敗だけ。押し相撲では珍しい安定感を見せてきたが、それも状態が良かったからととれなくもない。身長175センチ、体重169キロの“豆タンク体型”は立ち合いで自然と下から相手に当たることになるため、有利ではある。 しかし、平成で誕生した大関25人で身長が180センチ未満だった力士は他にいない。立ち合いのリズムが狂った時にどうなるのか? という課題が残る。 もっと言えば、小さな体を極限までチューンアップして走る小型車のようなものだから、勤続疲労は大型力士よりも懸念されるし、故障した時には一気に力が落ちてしまう可能性がある。 元横綱北勝海の八角理事長は貴景勝の相撲をこう評した。 「珍しい大関が誕生した。横綱、大関は相撲の型で言えば、まわしを取って、というのが多かった。(貴景勝は)一切取らずに押していく。これしかないという気持ちが見える。だからこそ、魅力的だし印象的だと思う。今後出てくるかどうかわからない(スタイルの)大関ですね」。これは期待を込めた前向きのコメントだが、逆に言えば「珍しい大関」はもろ刃の剣でもある。 貴景勝本人は、かつて、自分の相撲スタイルを半ば自虐的に「こんな相撲しかとれない」と表現した。そして、大関昇進を確実にした春場所千秋楽翌日にはこう話した。 「もっとこの相撲を、まわしのとれない、突き放して、突き放してというのをもっとやっていきたいと思う」 平成に誕生した大関から横綱になった9人で、横綱昇進まで所要場所数が最も少なかったのは朝青龍の3場所、逆に最長は武蔵丸の32場所。体にガタが来ないうちに、幕内で阿武咲と並ぶ最年少22歳という若さで一気に突っ走る―。大関在位期間が長引くほど、横綱の座は遠のいていくと見た方がよさそうだ。