「他人の才能に依存したくない」。『TOKYO VICE』で飛躍した笠松将が役柄問わず引き受けて見えてきた景色
国内外の現場を見て気づいた、日本のスタッフの有能さと問題点
―『TOKYO VICE』を筆頭に、国外作品への出演も増えていると思います。国内外の現場を経験してみて思うことはありますか? 笠松:ひとつはっきり思ったのは、スタッフや俳優たちを含めて、現場にいる日本の人たちの能力の高さは、やっぱりすごいってことです。そこは海外と余裕で肩を並べることができると思います。 ―なるほど、面白いですね。「やっぱり海外は違う」ではなく「日本もすごい」と。具体的に、どこでそれを感じたのでしょう? 笠松:まずはやっぱり、「時間」「予算」「能力」、この3つの重要性とそれぞれにおいて何をすべきか、しっかりわかってやっていることですよね。それって、すごいことだから。ただ、それができてしまっていることが、少し問題なのかなっていうのも思っていて。 たとえば、「50万円で家を建ててほしい」と言われたとするじゃないですか。海外の場合は、「いや、それは無理だよ。家っていうのは、これくらいのお金をかけないと建てられないよ」と言って、まずそのお金を集めようとするんです。 だけど、日本のスタッフは優秀だから、言われたとおり50万円で立派な家を建ててしまう。それが自分たちの首を締めているようなところもあるように思うんです。実行できてしまう能力自体は、ホントすごいことなんですけど、そこ(制作費)はやっぱり、どうにかしていきたいですよね。 僕がお金を集められるような人間になったら、もっと面白いことを日本で仕掛けられるはず。それはもう、確信しています。そのためには、僕自身がもっと多くの人たちに興味を持ってもらえるような人間にならなきゃいけない。これからは、そういう戦いが始まるんだなって思っています。
やってみないとわからないから、俳優業は「何でもやる」
―笠松さん自身は、『TOKYO VICE』への出演をきっかけに、海外のエージェントとも契約をしましたが、そういうポジションに立って、改めていかがですか? 笠松:正直な話、そこで一気に道が開けるのかなって思っていたところがあったんですけど、現実は、なかなかそう簡単なものではなくて。「あれ? 思っていたのと、ちょっと違うぞ」っていう(笑)。まず仕事の進め方が、日本とはぜんぜん違うんですよね。それこそ僕、(取材の)2日前までオーストラリアにいましたから(笑)。 それが何かいま、すごく面白いんですよね。この先、ひょっとしたら食べていけなくなるのかもしれないし、あるいはドバイあたりで豪遊しているかもしれないし(笑)。その、「この先どうなるかわからない」感じが、俳優を目指して東京に引っ越してきた頃と似ているなって思っていて。 ―これからどうなるかは、すべて自分次第というか。 笠松:そうですね。でも、そうなったからこそ、前に所属していた事務所の良さがわかったようなところもあって。やっぱり先々の仕事を取ってくるのって、ホントすごいことだから。 ―先ほどの「日本のスタッフは優秀」の話ではないですけど、外に出てみないとわからないことってありますよね。 笠松:そうなんですよ。だから、いますごくいい感じと言えば、いい感じっす(笑)。 ―(笑)。ただ、そこでちょっと面白いと思ったのは、そこで海外に拠点を移して日本の仕事を控えるのではなく、国内の仕事も引き続きやっていますよね。それこそ、深夜ドラマに脇役として出演したりとか。 笠松:あ、それはやりますよ。というか、僕、俳優業に関しては何でもやります(笑)。だって、面白いかどうかなんて、実際やってみないとわからないじゃないですか。僕が怖いと思っているのは、あれこれ仕事を選んで、結局何もやらなくなってしまうことなんですよね。それはつまり、他人の才能に依存した人間になってしまうってことだと考えていて。面白い脚本と、良いスタッフや共演者がいないと何もできないっていう。 そうではなくて、僕が最終的に目指しているのは、僕がいるところに人が集まってくることなんですよね。だから、作品の規模とかは正直なところ、あまり関係ないんです。それこそ、テレビのバラエティ番組とかも、呼んでいただけたらぜんぜん出ますし。 ―その柔軟なスタンスが、ちょっとユニークだなって思いました。 笠松:そうですか(笑)。ただ、それは、「引け目」みたいなものがなくなったこともあるのかもしれないです。昔は、まわりから「お前、まだそんな仕事やってんの?」って言われたり思われたりするのが、すごく怖かったんですよね。同世代の俳優がどんどん売れていくなかで、どこか引け目を感じていたのかもしれません。 ―なるほど。 笠松:でもいまは、そういうのがまったくないんですよね。「まだそんな仕事やってるの?」って言われても、「あれもやったうえで、これもやるんだよ」と言えるし、逆に他人のことを尊敬できるようになりました。だから、一つひとつの仕事がいまは単純に楽しいし、声をかけていただいて、素直に嬉しいと思えるんです。 (インタビュー・テキスト by 麦倉正樹 / 撮影 byタケシタトモヒロ / 編集 by 服部桃子 / ヘアメイク by 松田陵(Y’s C) / スタイリスト by 柴原啓介)