福島県飯舘村の今オンエア 福大生がネットラジオ 復興の姿、課題ありのまま 「住民の息遣い感じて」
福島県飯舘村の今を声で伝える―。福島大の学生有志は村民の日常会話や素直な思いを放送する「むらラジオ飯舘村(通称・ムラムラ)」をスタートさせた。インターネットラジオ番組として、村内で催されたイベントの模様をオンエア中。東京電力福島第1原発事故からの復興に向けて歩む姿や少子高齢化が進む地域の現状を、ありのままに発信している。飯舘に思いを寄せる人々を増やすことで村の盛り上げを誓う。 行政政策学類の大黒太郎准教授のゼミ生計4人がデジタル音楽配信サービス「スポティファイ」を活用し、運営している。村内で催された文化祭やワークショップなどに参加し、ボイスレコーダーで会場の音をそのまま収める。方言交じりの世間話や、時には愚痴も聞こえてくる。それでも、ありのままにこだわり、ほぼ無編集の声をリスナーに届けている。 昨年9月に放送を始め、既に9番組を制作した。放送時間は長い番組で2時間30分を超す。これまでは村やゼミが主催する行事の中で録音してきたが、今後は学生が村内各地を歩き幅広い住民の声を集める予定。運営を担う学生が卒業した後も、取り組みは後輩に引き継ぐ方針だ。
大黒ゼミは原発事故発生直後から村の復興支援に当たり、住民と交流を深めてきた。郷土料理作りや農業体験会の他、高齢者の見守り活動などに奔走してきた。ラジオ運営の中心を担っている3年生の山田樹さん(21)=岩手県宮古市出身=は昨年春、ゼミの一員となった。東日本大震災発生時は小学1年生で、古里は津波の被害を受けた。自宅は被災を免れたが一時、避難所生活を経験した。 福島大入学後、飯舘で活動するゼミの存在を知った。援助の手を差し伸べてくれた人の温かさが岩手県の故郷を支えた。あれから13年たち大学生に成長し、「自分も被災地の力になりたい」との思いが募った。 昨年夏に初めて村に足を運び、住民と話す機会があった。復興が進んでいるという漠然としたイメージを抱いていたが、現実は違った。「高齢者しか戻っていない」「コミュニティーが失われてしまった」「もっと人と交流したい」…。村の居住人口は約1500人で、原発事故前の約3割。このうち60歳以上は900人余で、高齢化が著しい。自身のイメージと、かけ離れた状況を知り、何かできないかと思案を巡らせた。村民の生の声を知ってほしい―。山田さんは大黒准教授と相談し、ラジオ形式の番組制作に動き出した。
昨年12月、家具作り体験のワークショップが村内で開かれ、村民ら約10人が参加した。山田さんは組み立て作業に悪戦苦闘する声や村民同士で交わされる昔話を拾い集めた。 避難先の福島市から参加した建設業藤井富男さん(68)は「住民の日常が伝わってくれればうれしい」と語る。山田さんは「村民のリアルな息遣いを感じてもらい、県内外の人が現状を知るきっかけにしたい」と願った。