すべてを“エグる”ドラマが、ディズニープラスに降臨。岩明均原作「七夕の国」に期待が高まる理由とは?
『岬の兄妹』(18)の片山慎三監督×柳楽優弥主演「ガンニバル」や、『怪物の木こり』(21)の三池崇史監督×韓国スター、チョン・ヘイン主演「コネクト」など、話題作、問題作を次々に送りだし、エッジを効かせた個性派作品のプラットフォームとしても定着しているディズニープラス「スター」ブランド。その最新オリジナルドラマシリーズ「七夕の国」が7月4日(木)よりディズニープラスで独占配信される。 【写真を見る】山田孝之の手がすごいことに…?「七夕の国」の重要キャラを特殊メイクで演じる! 原作は「寄生獣」や「ヒストリエ」の岩明均による同名コミックス。東北の山合にある集落を舞台に、この地に封印されてきた謎に迫るミステリアスな物語を展開する。本稿では、次のエピソードが待ち遠しくなるような謎解き要素や個性あふれる登場人物が織りなすドラマ、見ごたえある映像スペクタクルなど、配信前にぜひチェックしてほしい本作の見どころを解説していく。 ■閉ざされた町をめぐるミステリーと陰謀…思わずのめり込むストーリー展開 本作の主人公が楽観的な大学生、ナン丸こと南丸洋二(細田佳央太)。これといった特技を持たないナン丸だが、精神を集中させると物質に小さな丸い穴をあけられる、役に立たない超能力を持っていた。ひょんなことから調査中に消息を絶った民俗学の丸神教授(三上博史)の捜索を手伝うことになったナン丸は、丸神ゼミの講師や研究生たちと教授の足どりを追って東北の田舎町・丸神の里を訪問。折しも、丸神の里こと丸川町では、頭部を丸くえぐり取られた死体が発見される怪事件が発生していた。町の喫茶店で働く東丸幸子(藤野涼子)と仲良くなったナン丸は、丸神の里では謎の球体を操ることのできる“手がとどく者”と呼ばれる特殊な能力者が時々生まれると教えられ、また自分のルーツもこの地であることを知る。やがて、様々なものがえぐられる事件が東京でも続発するなか、ナン丸も“手がとどく者”として能力を開花させていく…。タイトルこそ「七夕の国」と一見ロマンチックだが、ハードな描写も含めシリアスな展開を見せていく。 物語の舞台は、奇妙な形の山々に囲まれてひっそりと佇む丸神の里。1000年以上にわたって守られてきた不思議な因習をもつこの集落で、なぜ人々に不思議な力が備わったのか。毎年6月に行われる「七夕祭」に隠された意味、そして“手がとどく者”とはなにを指すのか――ちりばめられた多くの謎がエピソードを重ねるごとにパズルのピースを埋めるように回収されていく小気味よさが本作の醍醐味。閉鎖的な丸神の里で、彼らの秘密をのぞき見するようなスリルも魅力を添えている。 そんな本作の鍵を握っているのが、両手のひらから黒い球体を生みだすことのできる“手がとどく者”。彼らが生みだす球体は金属など硬いものから人体まで、どんな物質でも触れた瞬間、対象物を球体の形どおりにえぐり去るきわめて危険な存在だ。球体の大きさは能力に応じて変幻自在で、ゆっくりと宙を舞う姿や物質に触れた時に発する「パンッ」という乾いた音も衝撃的。ドラマの骨子は丸神の里の秘密を探るミステリーと、“手がとどく者”たちをめぐる陰謀の2本柱。球体によるスペクタクルのほか、権力の濫用など社会派の側面も持っており、ミステリーから徐々に日本社会のダークサイドに踏み込んでいく展開に戦慄を禁じ得ない。 ■若手からベテランまで。実力派俳優たちが体現する複雑な人間ドラマ 主人公のナン丸は押しが弱くて優柔不断、ものごとを楽観的に捉える平凡な若者。“手がとどく者”として能力を発揮していく彼は、その力に向き合うことで少しずつ成長をとげていく。能力を開花し有頂天になったり、その力を利用され落ち込んだりと、どこか危なっかしくも微笑ましいキャラクターに共感を覚えるだろう。そんなナン丸と因習に縛られた幸子の間に芽生える淡いロマンス、能力を欲望を満たす道具として使って町を追われた幸子の兄・東丸高志(上杉柊平)の苦悩、そして素顔を隠して暗躍するミステリアスな丸神の里の次期当主・丸神頼之(山田孝之)が抱えた深い闇など個性的なキャラクターが織りなす多彩な人間ドラマも見ごたえがある。 ナン丸役で主演を務めるのは、大河ドラマ「どうする家康」の徳川信康役で話題を呼び、2025年度前期の朝ドラ「あんぱん」への出演が発表され注目を集めている細田佳央太。強大な力を手にしても常に普通の若者としての等身大な姿をナチュラルに演じている。ヒロインの幸子役は、映画『ソロモンの偽証』(15)で日本アカデミー賞ほか多くの新人賞を受賞した若き演技派・藤野涼子。故郷や家族に愛憎を抱く複雑な少女を熱演し、切なさがにじんだ演技で本作のドラマを牽引する。幸子の兄・高志役に『ディア・ファミリー』(公開中)や実写版「幽☆遊☆白書」など映画、ドラマで話題作への出演が続く上杉柊平、そして頼之役で山田孝之が出演。山田は特殊メイクで素顔をほぼ封印し、声や繊細な振り付けで丸神の里のキーパーソンを見事演じきっている。ほかにも個性派俳優としてジャンルを問わず活躍中の三上博史、瀬々敬久監督の『菊とギロチン』(18)に主演し数々の賞に輝いた木竜麻生ほか個性派、実力派が集結した。 そんな本作を監督したのが瀧悠輔だ。「アラサーちゃん無修正」(テレビ東京)で監督デビューした瀧監督は、堤幸彦監督に師事し「SPEC(スペック)~警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿~」などで監督補を担当。師匠譲りの絶妙なハンドリングで、ミステリアスなドラマを牽引する。Netflixで配信された瀧監督のヒット作、坂元裕二脚本の『クレイジークルーズ』(23)でも見せたVFXの妙味も健在で、黒い球体やその圧倒的な破壊シーン、美しくも怖ろしげな幻想シーン、どこか違和感漂う丸神の里のロケーションなど要所でエッジの効いたビジュアルを作りだしている。特殊メイクは特殊メイク・造形工房「自由廊」を主宰して映画やドラマ、広告など幅広く活躍しているJIROが担当。頼之の特殊メイクや人体破壊など、衝撃的見せ場を盛り上げた。もともと本作は、瀧監督と「ガンニバル」を手掛けた本作の山本晃久プロデューサーが10年前から構想していた企画だけに、原作の魅力をしっかり継いだ理想的な形で完成した。 排他的な集落でいにしえより密かに受け継がれた因習など、タブーな題材を扱いながら一級のエンタテインメントとしてまとめ上げた本作。“超常ミステリー”と銘打たれているとおり、謎解きのおもしろさや爽快感、さらにはアクション、スペクタクルへと発展するジェットコースターのような展開にきっと唸らされるだろう。 文/神武団四郎