生成AIによる偽動画、選挙前に日米で拡散…「欲まみれの落選必須議員」「トランプ票破棄」
日本で衆院選が公示された10月15日前後から、首相経験者の声を学習させたとみられるAI音声で「反自民党」の内容を語らせる偽動画が拡散した。岸田前首相のAI音声を利用したとみられる動画では、自民党を中心に「落選必須議員」として120人以上を紹介し、「欲まみれ」などとコメントをつけながら「落選させよ」と呼びかけた。ユーチューブで3万回以上再生され、X(旧ツイッター)で拡散した。
安倍元首相の声を学習させたとみられるAI音声で、立候補者と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の関係を語らせる偽動画も投稿された。動画にはいずれも「本人の発言ではない」と注意書きがあったが、首相経験者の声を用いることで信ぴょう性を高めようとしたとみられる。
総務省は公示前の10月11日、米メタ(旧フェイスブック)やXなど14社にネット上の偽情報対策を要請した。同省の担当者は「大規模な偽情報の発信は確認されなかった」と説明したが、公職選挙法には生成AIに限った規定はなく、本格的な規制の議論も進んでいない。
昨年9月、中欧スロバキア総選挙の2日前。第1党の座を争っていた親欧リベラル政党「プログレッシブ・スロバキア」(PS)のミハル・シメチカ党首らが票の買収を謀議した会話だとする音声が、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」に投稿された。
生成AIが作成した偽音声だと判明したが、音声は別のSNSに広がった。選挙はPSが次点となり、ウクライナへの軍事支援に反対した左派政党が政権を奪った。拡散したのは親露派の政治家らだ。PSのヤン・ハーガシュ議員は「生成AIが作る偽情報は民主主義の脅威であり、スロバキアの選挙は未来に対する警告だ」と訴えた。
◇
生成AIの弊害は多方面に及び、混乱が拡大している。人間社会はどのように生成AIと共存していくべきか。道のりを探る。