劇的サヨナラ王手弾。鷹の4番・柳田はなぜ目覚めたのか?
日本シリーズの第5戦が1日、ヤフオクドームで行われ、延長10回、柳田悠岐のシリーズ第1号となるサヨナラ本塁打でソフトバンクが5-4で広島を下し日本シリーズ連覇に王手をかけた。ここまで本塁打がなく、悩める4番打者だった“ギータ”はいかにして目覚めたのか。 「バットが折れてホームランになるとは……」 広島の選手会長であり司令塔の會澤翼は、しばらく、その場を動けなかった。 ポーンと放り投げだされたバットが折れていた。 4-4でむかえた延長10回。9回二死からマウンドに上がっている広島の守護神、中崎翔太のインサイドへ甘く入ってきたスライダー。微動だにせず、しっかりとためて、バットが一閃されると、まるで瞬間移動したかのように、白球はテラス席に消えていった。 「うわー。折れたと思ったんですが、テラスに入ったんでびっくりしました。(バットを折っての本塁打は)初めての経験なんで凄く嬉しいです」 初球はインサイドをえぐる146キロのストレートだった。第一戦から続いている広島バッテリーの徹底したインサイド攻めが、この打席も布石として続いていた。 だが、ソフトバンクの野球に詳しい評論家の池田親興さんは、予感がしたという。 「インサイドの見送り方に力みがなかった。この日も、走者がいるとアウトコース。走者がいないとインサイドと、ピッチャーや状況によって攻め方を変えられてきていたが、来た球を反応で打つ、強く打つ、という彼本来の自然体の基本の形に戻っているように見えた。最後は、外から入れる変化球が甘く入った失投。ここまでほぼ柳田への失投というようなボールはひとつもなかったが、それを見逃さずにしっかりと体が反応していた。長くプロ野球を見ているが、3冠王時代の松中信彦がバットを折ってバックスクリーンに放り込んだのを見て以来の衝撃だったね」 柳田は、サヨナラアーチを狙ったのかと聞かれて「まったくなかった。ないっすね」と、2度、否定した。 池田氏が言うように力みもなく肉体が反応したのだろう。 會澤はアウトコースの低めに構えていた。インサイドを見せて外へのバックドア。対角に揺さぶる配球の基本だったが、中崎は失投を犯した。頭の中が整理されて原点に戻った柳田には、その甘いボールは通用しなかったのである。 お立ち台での第一声は「疲れています」だった。