子どもがいない人が感じている職場でのしわ寄せとは? 意図しない分断が生まれてしまう理由とは?
子どもがいる、いないに関係なく、"プライベート"を尊重できる仕組みがしわ寄せを改善の鍵!?
朝生 「はたらく幸せ研究会」という活動の一環で、2021年から個人的に調査をしています。別のダイバーシティ&インクルージョンの勉強会に参加している仲間に企業の人事が多かったので、「子どもがいない人が育休や時短の人のカバーでしわ寄せを受けているという問題意識はありますか?」と聞いたんですよ。6件の回答と少ないため、結果の解釈は要注意ですが、4件は問題を認識しながら手を打っていないという結果でした。 小林 なんと......!? 見て見ぬふりしている企業が多そうですね。 朝生 子どもがいない人にしわ寄せがいっている現状を理解し、実際に対応している企業もありました。経営者が"対応したことで分断なく上手くいっている"と思っている企業は、子どもがいない人のプライベートもすごく大事にする仕組みにしているんですね。その人が何をしたいのか、仕事だけではなくて、プライベートでどういうことをしようとしているのかも管理職や経営者が丁寧に面談をして、それが実現できるように企業努力をしているのが見えました。 一方ですごくショックだったのは、把握はしているけど、何も手を打っていない企業があったことです。「優先順位が低い」という理由でした。 小林 えー! そんなにはっきり優先順位が低いと言われるなんて。ちょっと腹が立ってきました!! 朝生 「問題という認識はあるが、他の課題もあり着手できていない」ということでした。経営の判断としてわかるものの、当事者としてはモヤっとするものがありました。 よく考えると、女性活躍推進の観点からも「あれ?」と思うように。 優先順位が低くなるのは、"カバーする人とされる人の問題は、どうせ女性間の問題でしょ"と、矮小化されているからなのじゃないか?とも思えるのです。そうした風土が、過度に不利益を被った人がいても、なかなか声を上げられなくさせられてしまうのではないでしょうか。 小林 その"どうせ女性の問題"という意識が変わらないと、女性の多様な生き方を理解されるのは難しいですよね。 とはいえ、私自身も引け目みたいなものを内生してしまっているところがあると思うんです。"小さき者をみんなで守り育てよう。みんなでカバーしよう"というのは、もちろんそう思っているのですが、だからこそ若干声を上げにくいところもある。「私、すごくカバーしているんですけど!」みたいなことを主張すると、器が小さいと思われそうとか......。 朝生 声を上げられない理由のひとつに、子どもがいないことに対しての後ろめたさを社会からすごく感じさせられているということはあると思います。もうひとつ、「私ばっかりカバーしているじゃないですか、何とかしてくださいよ」みたいなことを言うと、逆攻撃に遭うことがあるんですよね。「そんなことを言うのは子どもがいる人にヤキモチを焼いているんだろう」とか。 小林 うわ、それは酷い発言! これですね、私がさっき言った「それまで自分ではそんなことを思っていなかったのに、"そう見えているということは、やっぱり子どものいない私ってダメなのかな?"と自信がなくなる」というのは。 朝生 そこで子どもがいないことに対するマイノリティ性みたいなものをすごく思い知らされちゃう。それで、「そんな嫌な思いをするんだったら言わない方がいい」という声もアンケートにありました。 小林 言いたいけど言えないから問題にならず、結局水面下で終わってしまう。そういうのってどうすればいいんですかね? 朝生 それを個人の責任にするのは無理があるし、違うんだろうなと思っています。だからアンケート調査することの意味があると思うんですよね。声を集めて、"同じように思っている人が実はこれだけいるんですよ"ということを世の中に出すことによってエビデンスになるから、「自分のわがままではなくて、一般的にこういう問題が起こっています。うちの会社もそうじゃないですか」と言える。あるいは子どもがいない人が集まる場を作ることで、共感してエネルギーを得られるということもあるかなと思います。 小林 育休や時短をカバーするために男性社員にもしわ寄せがいっているのかなと思うんですけど、女性だけ貢献が認められないという実態もあるのでしょうか? 朝生 社会的なジェンダー影響は結構大きくて、子どもがいるかいないかで、人間性みたいなものや人間の価値みたいなものを評価されるのは、どちらかといえば女性の方が多いんだろうなというのは調査の中で感じたところです。 小林 そういう空気感みたいなものが、知らず知らずのうちに心の負担になったりしているところがあるかもしれないですね。 朝生 日本の企業の中には、まだまだ「男性中心の職場」「女性中心の職場」という性別役割があるところが多い。女性の方が育休や時短を取ることが圧倒的に多いですから、カバーのしわ寄せ問題は女性の職場の中だけで起こっていて、男性はあずかり知らぬところ、というのが現実としてはあるようです。 また、会社の制度としてあったとしても運用するのは結局現場なので、それがちゃんと活かされていたり、嫌な思いをしていないかという話になると、そこのリーダーのあり方次第だったりしますよね。人手不足ということもあって、職場のリーダーや管理職もしわ寄せさせざるを得ないところもあるように思います。 小林 当人たちの問題じゃないところもいっぱいありますね。これから未婚の人も増えると思うし、子どもがいない人生を送る人は増えていく傾向じゃないですか。だからこそみんなが幸せにならないと、企業も生産性が伸びないだろうし、どうしたらいいんだろう......。制度の問題と気持ちの問題、その2つがすごく重なり合っているなって。妊娠・出産だけでなく多様な女性の生き方に理解がある企業を選ぶとか、あとはもう個人個人が多様性を認めることを心がけていくしかないのかなと今日は思いました。あまりにも外的要因が多すぎる気がして。 朝生 もちろん100%の答えではないですけれども、カバーしたことをちゃんと貢献として認める仕組みは生まれつつあるのかなと思っています。前述の育休や時短の人のいる職場でカバーしたメンバーにはボーナスが出るとか、何もされないよりは前進だなと思いますね。 小林 いくつか事例もありますもんね。ただ、報酬をもらって、"カバーした甲斐があった"と納得できたらいいと思う反面、でもやっぱり気持ちの面が気になります。"お金をもらっているんだからいいでしょ"と思われるのもちょっと悲しい。でも、進歩は進歩ですね。 朝生 はい、"少なくとも"という感じかもしれませんけど。「当たり前でしょ」とか「そんなことを思っていたの!? 全然気が付かなかった」とか、ないことにされるよりは進歩ですよね。逆に、育休や時短を取る人も"迷惑をかけている"という後ろめたさがある人もいますから、そこを払拭する意味でも、お金で解決することは方法のひとつではないかなと思います。 小林 なかなか根深い問題ですけど、やっと明るみに出たことで、何かいい方向性が見つかるかな、という希望は湧いてきました。 今回は子どもがいないという生き方にフォーカスしましたが、ほかにも女性の生き方は多様だし、もっと言ったら、人間ひとりひとりが違うわけで......。 だからこそ、わかりあえなくても、わかりあおうと対話を続けていきたいですね。伊集院光さんも言っていたけど、諦めたら分断、答えが出たと思ったら偏見につながりかねないから。 考え続けるのは私たちでもできること。F30プロジェクト として、そういった心持ちで、さまざまな女性の声を発信する機会を増やしていきたいと思いました。