新型BMW R1300GSの10年間分の進化はスゴい!!! 284万3000円からの高級大型バイクの世界とは
停車時、自動で30mm下がるシート
試乗したのは最上位グレード「ツーリング」。他グレードとの大きな違いは電子制御サスペンション「DSA」およびザックス製の「アダプティブ・ビークル・ハイト・コントロール」が装備されることだ。アダプティブ・ビークル・ハイト・コントロールは停車時に前後サスを縮めることで、座面の高さを走行時の850mmから820mmに下げる。さらに燃料タンクやシート形状の変更ともあいまって停車時の足着きははとてもよくなった。ちなみに身長173cmの筆者でも両足をしっかり地面に着けることができ、これまでGSに跨るときに必要だった“気合い”が必要なくなった。これがどれほどの心理的効果をもたらすかということは、ライダーならわかるだろう。車高は走り始めて50km/hを超えると約3秒で上昇し、25km/以下になると約1.5秒で下降する。その作動はとてもスムーズであえて気にしなければ気づかないほどだ。 いざ走り出すとすぐにその進化を感じる。端的に言うなら「軽い!」。 ひとつは車体そのものと動きの軽さだ。車両重量は前モデルより12kg軽量化され、グレードにより若干違いはあるものの概ね250kgに収まっている。ひとつ、ふたつとカーブを抜けると、エンジン搭載位置の見直しなど重量物の集中化による動きの軽さも実感できる。たとえば前モデルでは躊躇してしまったようなダートを前にしたとき、新型だったら「走ってみようか」という気になれそうだ。
洗練されたボクサーツイン
もうひとつの軽さはエンジンのフィーリングだ。刷新されたボクサーツイン(水平対向2気筒)エンジンは排気量を1254ccから1300ccと拡大し、最高出力145p、最大トルク149NmとこれまでのGSシリーズ最強のスペックを備える。 パフォーマンスアップ以上に印象的なのは回転のスムーズさ。大排気量ゆえの鼓動や振動が軽減され、まるでミドルクラスのエンジンのようにトルルルルル……と軽やかにまわる。 アクセルを開けたときに車体がブルン! と、横に振られる、ボクサーエンジン特有のトルクリアクションもほとんどなくなっている。個人的には、もう少しビッグツインらしい鼓動を残してもよかったのでは……と思ったほどだ。 紡ぎ出されるパワーとトルクの出方も滑らかで、とくに極低回転域からアクセルを開けたとき、ガクガクとすることもなくスーッと加速していくところなど、大排気量車らしからぬマナーに驚かされた。今回の試乗では林道も走ったが、落ち葉の積もった滑りやすく細い道をゆっくり進んでいく場面などでは、身のこなしの軽さと扱いやすいエンジンのおかげで、まるで自分の運転が上手くなったかのように感じられるほどだった。 ハンドル右側にあるボタンで「レイン」「ロード」「ダイナミック」「エンデューロ」の4つのライディングモードを切り替えることができる。エンジンの出力特性だけでなく、サスペンションやブレーキなどの制御も連動して切り替わり、あらゆる路面やシチュエーションに対応する。西伊豆スカイラインへと足を延ばし、ダイナミックモードでのライディングも試したが、鋭く吹け上がるエンジンと巌のような車体、強力なブレーキによりまるでスポーツバイクのように走ることができる。これがさっき林道をこともなげに走っていたバイクだというのがちょっと不思議に思えるほど、その万能ぶりに感心する。 オン/オフを問わない全方位的な走りの進化、さらに「扱いやすさ、乗りやすさ」を兼ね備えた新型GSが、ツーリングエンデューロのカテゴリーにおける新たなベンチマークとなるのは間違いないだろう。そればかりか、内燃機関のモーターサイクルにおけるひとつの“到達点”と言えるのでは? とさえ思わされる完成度の高さだ。 284万3000円~336万8000円という価格だけはフレンドリーとは言い難いが、それもこの“陸の王者”に跨れば納得せざるを得ないだろう。
文・河西啓介 写真・BMWモトラッド 編集・稲垣邦康(GQ)