「お尻がかゆい…」を放置してはいけない?注意したい〈お尻のかゆみ〉と隠れた疾患とは|医師が解説
お尻だけでなく、擦れやすい部位は要注意。病状が悪化すると、痛みや発熱が生じることもあります。医師が解説します。 〈図解〉毛包炎とは何か ■注意したい〈お尻のかゆみ〉何が原因? お尻が痒い際に、症状を放置してはいけない注意したい疾患のひとつに、「毛包炎」が考えられます。 毛包炎は、毛包浅層の微小外傷や閉塞、掻破などが発症の誘因となる化膿性炎症であると考えられています。 毛包炎とは、毛包に炎症が起きた状態のことであり、毛の根元が赤もしくは白くなった吹き出物が悪化して大きく腫れ上がった癤(せつ)に変化することもあり、強い痛みを伴うこともあります。 毛包炎の原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌が主流です。 黄色ブドウ球菌は皮膚にいる常在菌であり、衛生状態が良くないと繁殖しやすいですし、健康な人に比べて、慢性的な皮膚病を持つ場合、人混みや空気の汚れた環境で過ごすことが多い際には、通常よりも毛包炎になりやすい傾向があります。 毛包炎における代表的な症状としては、毛包に一致したブツブツとした赤い丘疹(きゅうしん)や、真ん中に膿疱(のうほう)と呼ばれる膿を持った丘疹があります。 丘疹の周囲の部位は赤みを伴っていて、症状としてかゆみは自覚ないことが多く、押したときに痛みを感じる場合があります。 毛包炎は、毛穴が存在する部位ではどこでもできる可能性がありますが、顔面や腋窩などの部位や大腿部、お尻(臀部)といった擦れやすい部位に病変が認められやすい傾向が見受けられます。 毛包炎の患部は、1個だけの場合もありますが、数個~数十個が集簇して認められることもあります。 毛包炎は、黄色ブドウ球菌や表皮ブドウ球菌、マラセチア菌などの細菌が毛穴に入って炎症を起こすことで発生します。 これらの細菌は、普段は皮膚の常在菌として互いにバランスを保ちながら、皮膚の保湿機能やバリア機能を果たしていますが、日焼けなどの紫外線やレーザーなどの外部刺激、高温多湿の環境、皮脂の増加などによってバリア機能が低下します。 これらの様々な要因によって、皮膚の保護機能が弱体化するため、一部の菌が毛穴で繁殖して炎症を起こしやくなって、毛包炎が治りにくい場合もありますので注意が必要です。 ■毛包炎の対処法とは? 毛包炎の大きな原因は、皮膚のバリア機能が低下すること。普段からスキンケアを入念に行うことで、毛包炎を発症するリスクを下げることができます。 特に、乾燥肌の人は通常よりも肌が敏感な状態になっていますので、刺激になるものはできるだけ避けて、保湿を確実に実践することが大切なポイントです。 入浴する際には優しく患部を洗い流したあとに、清潔なタオルで綺麗に拭くようにしましょう。 患部の熱や腫れが悪化して毛包炎の炎症範囲が広い場合、あるいはセルフケアを実施して1週間程度経過してもいっこうに症状が軽快しない場合は、皮膚科など専門医療機関を受診してください。 また、刺激のある石鹸などでゴシゴシ患部を洗うと炎症が悪化して症状が長引くことも考えられますし、お尻の発疹を無理につぶすと不潔な環境につながって治癒期間が長期化する恐れもありますので注意しましょう。 ■まとめ これまで、放置してはいけない、注意したい危険なお尻が痒い症状と侮ってはいけない隠れた疾患などを中心に解説してきました。 毛包炎は、赤みを帯びたぶつぶつがお尻などにできて、毛穴に白や黄色の膿を含む盛り上がりができる病気です。 ひとつの毛包に病変ができることもあれば、複数の毛穴にできることもありますし、原因菌が毛穴に入って炎症を起こすことで赤みやかゆみ、痛みを伴います。 毛包炎は、症状が軽い場合には皮膚を清潔にして保湿ケアをすれば1週間程度で治癒することが期待できますが、病状が悪化すると、膿がしこりのようになって痛みや発熱が生じることも考えられます。 お尻が痒い症状が長引く際には、毛包炎を疑って、自己判断によるセルフケアだけに頼らずに、早めに最寄りの皮膚科クリニックなどに連絡し、適切な治療を受けましょう。 文/甲斐沼孟 大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
甲斐沼 孟