トランプ政権2025 ストッパー不在の「忠臣蔵人事」で“関税男”はノンストップ? ワシントン支局長解説
2025年、トランプ氏がいよいよ大統領に就任する。世界、そして日本はどう変わるのか? テレビ朝日ワシントン支局長 梶川幸司氏に聞いた。 【映像】“トランプ忠臣蔵”のメンバー ━━何が起きるか分からないトランプ政権。注目ポイントはどこか? 「ヒントは人事にある。中でも新たに作られる政府効率化省のトップに起用された実業家のイーロン・マスク氏だ。政府効率化省は“新しい役所”ができるわけではなく言うならば助言機関であり、政府の外から規制の撤廃、公務員の削減、無駄遣いの圧縮の3本柱を行い、日本円にして年間およそ76兆円の歳出をカットするとマスク氏は意気込んでいる。マスク氏としても規制緩和に自ら取り組むことで自動運転、AI、あるいは宇宙という自分の事業を前に進めたいという思惑があり“2人の蜜月関係”を生んでいると見られている」 ━━トランプ氏はなぜマスク氏にこだわるのか? 「まず、選挙で助けられた“恩義”もあるだろう。マスク氏は大統領選の期間中に、日本円で400億円近い資金を投じたと言われている。また、マスク氏が買収したXを使って、マスク氏自身がさかんにトランプ氏を応援するメッセージを発信した。もちろん、その中には偽情報、陰謀論すれすれのものもあったが、こうしたことがトランプ氏の当選に大いに貢献したとトランプ氏が評価していることが重用につながっている。加えて、マスク氏に新しい政権で規制緩和やコスト削減を進めてもらうことで『政府の実績、あるいは財源を生み出してほしい』という思いもあるだろう。世界一の権力者と世界一の富豪が手を結んでいる構図だが、互いに打算あっての関係であるためこの蜜月関係がいつまで続くのか、アメリカメディアも注目している」 ━━厚生長官候補のロバート・ケネディ・ジュニア氏も波紋が広がっているようだが。 「ケネディ氏は暗殺されたジョン・F・ケネディ元大統領の甥にあたり、言わば政治の世界の名門出身だが、突拍子もない発言や言動で“異端児”扱いされている。ケネディ氏は元々大統領選挙に無所属で出馬していたが途中で取りやめ、トランプ氏の支援に回ったことがトランプ氏勝利に繋がった側面があることから論功行賞のような形で厚生長官候補に指名された。しかし問題なのはケネディ氏が『一部のワクチンは自閉症の原因だ』などと科学的根拠を伴わない陰謀論的な主張を繰り返していることだ。厚生長官はアメリカの公衆衛生の責任者であるため、知識も経験もない上に反ワクチンといった陰謀論をトップが主張するとなると、大きな懸念が出てきて当然だろう」 ━━ケネディ氏指名の影響は出ているのか? 「トランプ氏は『ケネディ氏はそんなに急進的な人物ではなく柔軟な考え方を持っている』などと記者会見で擁護しているが実際にワクチンを製造する製薬企業の株価は下落している。また、アメリカでノーベル賞を受賞した著名な学者77人が『ケネディー氏が厚生長官になると国民の健康を損ね、科学界におけるアメリカの指導的な役割も損ねてしまう』と上院の議員に対して書簡を送っている。とはいえ、アメリカでは、大統領が政府高官に指名したから決まりというものではなく、人事は議会上院が承認しなければ前に進まないことになっている。そのためケネディ氏の人事はこれから議会で揉めることになるだろう」 ━━他にも承認が危ぶまれている人物はいるか? 「かなりいる。国防長官候補のヘグセス氏は保守系FOXニュースの司会者を務めていたが、トランプ氏が国防長官候補に指名した後、過去に女性に性的暴行容疑で捜査されており、女性に金銭を支払って和解していたことが明らかになった。ヘグセス氏は元軍人ではあるものの軍の組織で要職を経験したこともない。『なんでこんな人が国防長官なんだ?』という声はあるがトランプ氏は今のところヘグセス氏をかばって指名を見直すつもりはないと繰り返している」 「他にも、国家情報長官、国のインテリジェンスを担当する地位に指名されたギャバード氏はこれまで“ロシア寄り”の発言が目立っており、シリアに関しては『アサドはアメリカの敵ではない』などの発言も過去にしている。また『日本の防衛力強化も懸念だ』といった発言も波紋が広がったこともあるが、そもそも彼女は情報機関で働いたこともないのだ」 「またFBIのトップに指名されたパテル氏は熱烈なトランプ氏の支持者だが、この人自身が『トランプ氏を捜査したFBIを許せない』といしてFBI解体論を訴えている。このようにアメリカでは指名はどうなるのか、と懸念されている。おそらく議会ではすったもんだの末に指名される気もするが問題人事なだけに今後は相当な批判にさらされることになるだろう」 ━━なぜトランプ氏は不安材料の多い人物を起用するのか? 「キーワードは“忠誠心”だと思われる。トランプ氏は一次政権の際に軍や企業で実績を積んだ人を勧められて起用したが途中で仲違いして次々に辞められるなど混乱が続いた。教訓と反省を生かし、今度は『絶対に自分に逆らわない人、自分を裏切らない人』に絞って登用しているようだ。過去に自分を批判したことがある人物でも反省して忠誠を誓えば重用する姿勢も見せている。忠誠心を競い合わせることで、自らの求心力も高める効果があると思われる。ただ、“ブレーキ役の不在”という面があり、トランプ氏が暴走した場合に誰も止められなくなってしまうのではという懸念も合わせて指摘されている」 ━━アメリカは現在“トリプルレッド”などと言われているがどのような状態なのか? 「大統領選でトランプ氏が勝利しただけではなく、同時に行われた上下両院の選挙でも共和党が多数を取った。共和党のイメージカラーが赤なのでこの状態をトリプルレッドと呼ぶ。アメリカでは『大統領だからなんでもできる』わけではなく、議会の協力がなければ前に進まないと言われているが、今の共和党はトランプ党とまで言われるようになっている。なぜなら、現職の議員でも次の選挙に出るためには共和党の中で予備選を戦う必要があるが、予備選に勝つためにはトランプ氏を熱烈に支持するトランプ氏の岩盤支持層からの支持を得なくてはならない。つまり、トランプ氏に歯向かえない構図があり、トランプ氏も『歯向かうんだったら予備選で対抗馬を出すぞ』という圧力を加えている。議会は必ずしも従う議員ばかりではなかったが、今のトランプ党と化した共和党の中でトリプルレッドという構図になると、トランプ氏の意向が通りやすくなる」 ━━CNN世論調査では「トランプ大統領はアメリカを変える」と回答した人は68%、一方で、それが“良い変化”になると答えた人は48%だったという。なぜこのような結果が出たのか? 「アメリカ社会は分断で真っ二つに分かれているため、半分の人たちがトランプ氏を支持しているように見える。さらに世論調査の内訳を見ると『トランプ氏の経済政策に期待する』と回答した人は3分の2もいる。トランプ氏の大統領選の最大の勝因はバイデン政権で進んだインフレに対する国民の怒りであり、今のところはインフレの怒りはバイデン政権にあるため、その分だけ期待が集まっているのだ。ただし、この後トランプ政権が始まってインフレを改善できなければうまく回らなくなるだろう。そしてそのことが外交を始め、トランプ政権が今後打ち出してくる政策に影響を与えてくるだろう」 ━━トランプ氏は就任後にまず何をするのか? 「就任初日にいくつかの大統領令を出すと見られている。パリ協定からの脱退や不法移民の国外追放などだ。そして今最も注目を集めているのは関税だ。トランプ氏は就任初日にカナダとメキシコには25%、中国には10%の関税を課す考えをすでに表明している。日本にも大きな影響が出てくるかもしれない。トランプ氏はアメリカ第一主義を掲げているが、アメリカが外国から好きなようにやられているという“被害者意識”がある。『関税を上げれば補助金を与えなくても、外国からアメリカ市場に企業がやってくるし、貿易赤字はなくなる』という考えを強く持っている。この関税を武器にして外国に対して交渉をやればアメリカの言う通りになるという姿勢だ。関税を巡る主戦場は今後中国になる。トランプ政権最初の半年間、関税については特に注目だ」 (ABEMA NEWS)
ABEMA TIMES編集部