「東京メトロがロンドン市営地下鉄の運営を落札」を英国の識者が検証
41駅、総距離100kmを走行しつつ「3つの信号システムと通信」――
この路線に複数存在する信号システムも難題のひとつだ。エリザベス線の路線には41駅があり、総距離は100km以上に及ぶ。この路線を走る電車の車載ソフトウェアは、路線全体を通して3つの異なる信号システムと通信する必要がある。また、エリザベス線はいずれ西ロンドンにある新しい交通スーパーハブ、オールド・オーク・コモン駅に停車し、2030年代に完成予定の高速鉄道HS2と結ばれる予定でもある。 この共同事業に英国最大の鉄道運行会社の一つを所有する英国鉄道業界の大手、ゴー・アヘッド・グループも参画していることは、運営上の課題軽減へのメリットに違いない。だがこの新たな共同事業は、運営上の問題とは領域を異にする以下2つの課題も負っている。 1)国際的な共同ベンチャーでは、プロジェクトの意思決定やコミュニケーションに携わる人々の間でのコミュニケーション問題がつきまとうが、東京メトロが海外で鉄道路線の運営に直接関わるのが今回初めてであることや、ゴー・アヘッド・グループが日本でプロジェクトを行ったことがないことを考えれば、今回も例外ではないだろう。 2)また、ステークホルダーや世論の管理も最重要課題となる。まず英国の鉄道インフラを管理するネットワーク・レール社との関係は難航するだろう。また、列車ストライキの問題や、英国における列車の信頼性やコスト上昇に関する世論も風評問題を引き起こす可能性がある。日本の企業はこのような多様な問題に必ずしも十分な注意を払っておらず、いずれその反動の対処に追われ、大きな衝撃を被る可能性がある。 *1 英国エリザベス線、2022年開通(リンク先は英文) *2 東京メトロと住友商事、英国エリザベス線運営コンソーシアムに参加へ セーラ・パーソンズ(Sarah Parsons)◎英国のリンカンシャーに拠点を置くイーストウエスト・インターフェイスのマネージング・ディレクター、在英国日本大使館主催「英国ジェットプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)同窓会」英国元会長。企業の異文化コミュニケーションと戦略をサポートしている。多くの大手日系企業や在英日本人エグゼクティブとのビジネスのほか、英国企業と提携したい日本企業へのコンサルティングも行なってきた。また、英国広報協会(Chartered Institute of Public Relations)のアソシエイトでもあり、SOAS、シェフィールド大学、ウォーリック大学、クランフィールド大学などで日本ビジネス、異文化コミュニケーション、国際人事管理、労使関係について講義を行っている。
Forbes JAPAN 編集部