北朝鮮の短距離ミサイル発射はなぜ大ニュースじゃない? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
弾道ミサイル発射と核実験
ここで私は「弾道ミサイル」という言葉を使いました。ガスを噴射して宇宙空間に飛び出し、慣性の法則を利用して頭に積んだ武器(弾頭)を狙いの場所へ落下させる方式で、「ノドン」「テポドン」およびその改良型はすべてそうです。これの何がまずいかというと北朝鮮が核弾頭を持っている可能性を否定できないからです。 広島や長崎に投下された原爆は軍用機がその場まで運んで起こしました。飛行機で輸送できる重さならば可能です。しかし核弾頭はそれよりはるかに小さくしないと役立ちません。いわば「核弾頭」が武器で「ミサイル」は運搬手段です。その核実験を北朝鮮はミサイルを打ち上げた06年、09年と12年に打ち上げた翌13年に行っています。まるで「武器と運搬手段をセットでそろえるぞ」と脅しているかのようです。
北朝鮮の核開発がどこまで進んでいるかはわかりません。ウランという元素を用い核分裂を起こす放射性同位体「235」を濃縮しなければなりません。同位体とは同じ元素でも陽子と中性子を足し合わせた数が違う種で、自然界に存在する天然のウランに235は1%弱しか含まれていません。核分裂が起きた際に発生する大きなエネルギー(熱)を集中して放出させるのが核兵器。逆に効率よく連続的に反応させていくのが原子力発電です。 この状態を作り出す「ウラン濃縮」およびそれを収納する箱の製造は大変難しく、軍事筋の多くが「まだ北朝鮮は未完成」とみなしています。とはいえ実験しているのは確実なので運搬手段の方も禁止してしまおうというのが安保理の考えで、09年の決議では「弾道ミサイル技術を用いたいかなる発射も許さない」としています。核弾頭による攻撃とはでかい飛行体が落下してくるのではなく箱が垂直に落下してくるというイメージに近いです。
軍事的な意味はさほどない?
日韓の国民が射程内のミサイルを北朝鮮が持ちながらノホホンとしているのは「まだ核弾頭を持っていなかろう」に加えて、ミサイルを発射したり核実験をしたという行為自体に軍事的に意味がさほどないからでもあります。1991年の崩壊まで旧ソ連が米国と並ぶ軍事超大国でいられたのは57年に大陸間弾道ミサイル(ICBM)完成を発表して、いつでも米本土をミサイル攻撃できる態勢を整えたのも大きい。ICBMは結局1度も発射されませんでした。でもそれこそがソ連の軍事力を誇示できた最大の理由でもあったのです。 つまり1回でも打ってしまえば性能などが丸裸にされてしまう上に失敗でもしようものならば権威の失墜は否めません。軍事力とは「秘すれば花」という要素が多分にあります。なのに北朝鮮は発射してしまい、現にその能力は丸裸にされつつある上に発射したという事実から非難決議採択まで進んでしまいました。