北朝鮮の短距離ミサイル発射はなぜ大ニュースじゃない? /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
北朝鮮が打ち上げるミサイルでさして話題にならないものがあります。だいたい日本海か、たまに東シナ海へ向けて放つものです。代表的なのがコードネーム「シルクワーム」で中国が開発した艦船攻撃のためのミサイルです。対艦とはいえ陸上に落ちればそれなりの被害は出ます。射程距離は隣国韓国に及びます。それが全域なのか一部に止まるのかは議論が分かれています。 もう1つがコードネーム「ノドン」で日本を射程圏に入れます。1993年に発射された際には大騒ぎとなりました。ただそれ以降は2006年7月に「7連発」して世界を驚かせた発射事件の大半がそうであろうと推測されてからあまり実射していません。「ノドン」は旧ソ連がしきりに作った「スカッド」ミサイルを北朝鮮が改良し、今は武器貿易の主流となっています。たぶんに実験は客へのデモンストレーションの意味合いが大きいようです。
韓国が射程の「シルクワーム」
さてこれらが騒がれないのはなぜでしょう。「シルクワーム」に関しては仮想敵の韓国民が「撃ってくるはずがない」と思っているのが大きいです。南北朝鮮は1950年に始まった朝鮮戦争で激しく戦いました。53年7月に「休戦協定」が結ばれるも、韓国側に立った「国連軍」(国連憲章にのっとった正規の国連軍ではない。米軍中心)と北朝鮮、および北側を事実上支援した中国の3者が調印しただけで当事国の韓国は署名しませんでした。つまり形式上まだ戦闘中で終戦は迎えていないのです。 それから60年以上経ちました。韓国の政府機関「6・25戦争記念事業会」が2009年に発表した世論調査によると朝鮮戦争が始まった年を回答者の3分の1以上が誤っていたり「知らない」と答えました。19歳から29歳に限れば47%が「知らない」なのです。双方で100万人以上の死者が出た割には淡泊ですね。
日本が射程の「ノドン」
日本と北朝鮮の間には拉致問題があるので北朝鮮の存在は忘れないものの「ノドン」の脅威をどれだけ感じているでしょうか。近年の沖縄米軍基地問題はともすれば台頭する中国への抑止というイメージが強いようですが、そもそも南北朝鮮が「休戦」状態であり続けることが置き続ける最大級の理由というのを忘れているかのようです。日本にいた米軍部隊も朝鮮戦争へ投入されました。北朝鮮問題は巡り巡って米軍基地問題の解決にもつながる重要なテーマなのです。 先に述べた「ノドン」や1998年に発射された日本全土を射程内に収める弾道ミサイル「テポドン1号」が日本列島を越えて太平洋に着弾した過去もあります。最初「人工衛星の打ち上げ」と説明して北朝鮮も99年9月に米政府が経済制裁を一部解除するとしたのと引き替えに「米朝高官協議開催中はミサイルを発射しない」とのモラトリアム(凍結)を明らかにしていました。日本も02年9月の日朝平壌宣言でモラトリアムを03年以降も延長したのです。 そこに2006年7月の「7連発」があり、そのうち1つは日本はおろかアメリカ領まで達する「テポドン2号」が含まれていたので国際世論は沸騰し、国連安全保障理事会が「弾道ミサイル計画の停止」を要求しました。