大貫妙子×山弦 まっすぐ伸びる歌声が客席に爽やかな風を送り込んだ「TOKYO春爛漫 ~萌芽編~」レポート
有楽町にオープンした新劇場、I’M A SHOW(アイマショウ)に大貫妙子と山弦が登場。ともに全国ツアーを廻ったり、コラボ作品をリリースしたりと、もう何十年も付き合い続けてきた両者のライブには、もはや類稀な一体感がある。ふかふかの椅子に身を沈めながら聴く山弦の演奏と大貫妙子の歌声は、観客の魂丸ごとを包み込み、和ませた。 【全ての写真】大貫妙子×山弦のライブ写真(全20枚) 4月に同会場で行われるライブイベント「TOKYO春爛漫」に先駆け、草木の新芽が出始める時期に番外編として組み込まれた「TOKYO春爛漫 ~萌芽編~」。この日の構成は、まず前半に山弦、後半に大貫と山弦のステージという二段構え。タイトルといい、大貫妙子×山弦の構図といい、まずはほっこりしたムードになることが想像された。そして最初に登場した山弦のふたりは予想通り、まるで忘れ物を取りに来たかのようにふらっとモニターの前に座り、一曲目の「SONG FOR JAMES」から柔らかく繊細なギターサウンドを展開していった。高い天井に吸い込まれていくふくよかな和音と、弦の擦り音がなんとも気持ちいい。一曲ずつ間にトークを挟んでいくのだが、ふたりの掛け合いがさらにラフな空気を作り出す。のんびりと花粉症の話をしていたかと思えば、 「それでは花粉の飛散の状況を表現した『春』という曲をお聞きください」(佐橋) 「あ、そうなの? 30年間わからなかった(笑)」(小倉) と言いながら、2曲目の「春」を演奏。跳ねるリズムが、いたずらな風に舞う花々を想像させる。続く「そりは行く」では過酷な寒さを思わせるクールなメロディから一気に疾走感あるメロディへと変わり、雪しぶきをあげながら滑り降りるそりを彷彿とさせる。曲ごとの風景が映画1本のダイジェストのように切り替わり、耳だけじゃなく脳にもたっぷり刺激を受けているのを感じた。 この日は裏テーマとして、音響担当スタッフの古希祝いがあるとのこと。ステージからお祝いの言葉を贈り、紫のグッズを探して山弦のアルバムジャケットをプリントしたTシャツを用意。「強制的に着てください」(佐橋)と笑っていたが、きっと大貫妙子はもちろん山弦と同世代のアーティストたちにとって、IT技術が浸透する前の、アナログ時代から支えあってきたスタッフはまた特別な存在なのだろう。スタッフに敬意を払う絆の強さが、うらやましくなる一幕でもあった。 山弦の名前の由来は、山のような量の弦楽器を弾きこなすからだと聞いたことがある。でもそれだけじゃなく、たとえ2本のギターだとしても、山のような量の弦の音を出せる意味でもあるのだと思う。コードをパーカッシブに情熱的に掻き鳴らすスパニッシュギターのそれとはまた違い、複合唱のように旋律と和音が入れ替わりながら情景を描いていくテクニック。槇原敬之がカバーした「島そだち/Island made」、この日一番のアップビートナンバー「tell me something」など叙情的かつ圧倒的なギターパフォーマンスを誇る曲を続け、たった2本のギターから成り立っているとは思えない演奏を聴かせて前半は終了。インストゥルメンタルのライブが希少となった今の時代に、それはあらためてギターという楽器の振り幅の大きさと、山弦というアーティストの描く世界の美しさを堪能できる時間となった。