大貫妙子×山弦 まっすぐ伸びる歌声が客席に爽やかな風を送り込んだ「TOKYO春爛漫 ~萌芽編~」レポート
少しの休憩を挟んで、後半は大貫妙子を加えた2組でのステージ。トレードマークのボブヘアに白シャツと赤い総柄のスカートをあわせた大貫は、この日も永遠の少女っぽさをキープ。しばし3人のトークで和んでいたが、最初の「横顔」の歌と演奏が始まった途端、場内の空気は都会のカフェのような洗練された空気に変わった。繊細な音を幾重にも重ねて厚みを出し、風景を描く山弦の演奏に、ソフトでいて芯のある大貫の歌声がストーリー性を持たせていく。山弦のギターから漏れる弦の擦れ音、大貫の歌声から漏れるブレスといった譜面上に描かれない音のひとつひとつが、その歌と演奏を同じ空間で聴くことの醍醐味を増幅させる。続く「緑の風」では、サラサラした音色とまっすぐ伸びる歌声が客席に爽やかな風を送り込み、自然と人々の身体を揺らした。 「緊張する…何年歌ってるんだ(笑)。山弦も緊張する?」(大貫) 「緊張しますよ。緊張しなくなったら終わりだと思ってますから」(佐橋) 「何が終わるの?」(大貫) 「色々と(笑)。リハーサルは緊張しないのにね」(佐橋) 「俺は本番のほうがちょっと緊張しない。リハはわりと緊張する」(小倉) 「いつまで続くの?その話」(大貫) 特に話す内容も決めてこなかったと思われるMC。20年以上前には両者で全国ツアーを廻ったこともあり、もはや旧知の友といえるその関係性は、年々、この両者のジョイントステージに濃厚さを与えているのだろう。2001年にコラボCDとして発表した「あなたを思うと」には、お互いの呼吸を感じながら進んでいく自由度の高さと、熟成されたワインのような重量感の両方を感じられた。高低差のあるギターのユニゾン、丸く甘みのある歌声。聴きながら、なんて贅沢な時間なんだろうと心から思う。劇場版「どうぶつの森」の主題歌だった「森へ行こう」は、自身も熱烈な「どう森」ファンである大貫の愛嬌たっぷりな歌い方がじつに可愛らしい。2020年にCMに起用されて再び注目を浴びた「美しい人よ」では、これまで真摯に音楽と向き合ってきた女性ならではの透明感ある歌声を堪能できた。 アンコールで大貫は、今年は数々のコンサートを行い、今年7月には「FUJI ROCK FESTIVAL’24」に初出演することを発表。驚いた佐橋が「フジロック出るの!? すごい!」と問いかけると、「気持ちはロックですから」とにっこり微笑む大貫。いや、この3人がいかにロックなのかは、このステージを見ている誰もが納得していること。これだけ一曲ずつの世界観の中に没頭し、全身全霊を注ぎ続けるなんてこと、常人には不可能なのだ。かと思えば「さあさあ、告知を続けてください。この歳になると“告知”って言葉にドキッとしちゃう」(佐橋)とか言ってみたり、ふざけすぎる山弦のふたりを大貫がたしなめたり。音楽を展開中のときと素の3人とのギャップに、客席は大いに沸いた。 そして大ラスとなった「ピーターラビットとわたし」は、跳ねるリズムとメロディの気持ちよさ、瑞々しい響きを持つギターと歌の愛らしさを味わえる逸曲。まるでお土産をもらったように、その曲の楽しさはいつまでも耳に残り続けた。 Text:川上きくえ <公演情報> TOKYO春爛漫 萌芽編 3月16日(土) 有楽町 I'M A SHOW 【セットリスト】 ■山弦 1. SONG FOR JAMES 2. 春(SPRING) 3. そりは行く( SLED) 4. 島そだち/Island made 5. HARVEST 6. rise & shine 7. tell me something 8. 花鳥風月/beauties of nature ■大貫妙子 with 山弦 9. 横顔 10. 緑の風 11. a life 12. あなたを思うと 13. snow 14. 森へ行こう 15. 美しい人よ 16. 色彩都市 EN1. 蜃気楼の街(山弦) EN2. ピーターラビットとわたし <イベント情報> TOKYO春爛漫 会場:I'M A SHOW 【日程・出演者】 4月18日(木) 曽我部恵一 4月19日(金) 矢野顕子 4月20日(土) 君島大空 4月21日(日) 原田郁子